91.絶対についていく覚悟
置いていこうと思ったのに……ルカは離れようとしなかった。寝る時からこちらを気にしているとは思っていたが、まさか挙動を見張られていたとはな。唸ったり可愛く甘えた声を出したり、一緒に行くと必死でアピールしてくる。
「だがな、ルカ。距離があるぞ? 疲れても馬車はないんだ」
きゃう! それでも行くと言いたげに、立派な返事が発せられた。じっと見つめ合い、根負けしたのは私のほうだ。仕方ない、いざとなれば背負っていくしかないと。ルカの入れる手ごろな籠がなく、背負うタイプの布袋を手配した。
出先で籠を見つけて購入してもいいが、どちらにしろ私が背負うタイプにしよう。馬具に取り付けて、モニカの走りに影響すれば取り返しがつかない。この美しい毛並みに傷をつけるくらいなら、私の肩に紐が食い込むほうがマシだ。
一族で開発した鞣し革の柔らかなバッグのみを装着し、モニカはやる気満々で待っていた。早朝の青と紫が入り混じった時間は、どことなく静けさが似合う。大仰な見送りを断ったため、父上と母上、バシリオの三人だけだった。
カランデリア様は部屋の窓からひらひらと手を振っている。家族の見送りだからと遠慮したのだろうか。いや、遠慮という単語がこれほど似合わない人もいないが。
ベスはフリル付きの乗馬服でブリサに跨り、ドレスは持たなかった。化粧品だけ用意したと聞いて、首を傾げる。ドレスは到着したら購入し、向こうでまた売りに出す。余計な荷物を持たない方法と言われ、納得した。
貴族の購入するドレスは高く、よい生地を使っているため高く売れる。公爵家が売った中古ドレスを、仕立て直して子爵家や男爵家が着用することもあった。仕立て直しは体に合わせるほかに、上位の貴族への配慮もある。同じデザインを着用するのは無礼だからだ。
貴族は細かな決まりばかりで息苦しいが、それもまた楽しんでこそ人生だ。モニカに跨り、走らせる。ベスを乗せたブリサが続き、ルカも元気よくついてきた。
ここから複数の街を経由し、大きな街道沿いにキロス王国へ向かう。盗賊の襲撃程度は問題ないが、見張りで睡眠時間を大幅に削られるのは嫌だ。ウルティアと取り引きのある商人の一行と合流し、楽をさせてもらう予定だった。
「遅れないようにしないとな」
「もちろんよ」
ベスの相槌と同時に、手綱でモニカに合図を送る。少しだけ速度を上げた。ルカは元気いっぱいで追い抜いては立ち止まる。あのはしゃぎようでは、早々にへばるだろうな。苦笑いしながらも、好きにさせた。商隊と合流すれば、嫌でも移動速度は落ちるのだから。




