90.キロス王国を口説く役をもらった
「ふむ、合格点をやろう」
父上が満足そうに頷いた。ベスに漏らした情報を回収し、バシリオの話題を利用して新しい道を模索する。一族を導く本家の子女に必要とされる能力だった。及第点扱いされず、ほっとする。
「では、キロス王国との折衝は誰が向いているか?」
新たな質問に、にやりと笑って一礼した。
「私が向かいましょう」
大仰に振る舞えば、自然と口調は改まった。
アルバ王国は今回の戦で消えるか、規模の縮小を余儀なくされるだろう。以前キロス王国が奪われた領土は、そのまま返還する約束で同盟を結べばいい。我らが手に入れても、キロス王国の恨みを買うだけだった。それなら鼻先にぶら下げて、キロス王国を操る餌にする。
ウルティアはモンタネールに恩を売り、同時にキロス王国とも対等の立場を築ける。アルバ王国はどちらにしろ、あと数世代の寿命だった。百年ほど早く滅びても、世界の大きな流れの中では誤差だ。
国には人と同じく寿命がある。老いた国は愚かな選択を重ね、選民意識を振り翳した。長い歴史を紐解けば、そうして滅びた国の名が並んでいる。ウルティアは歴史に埋もれないよう、常に新陳代謝を促してきた。
考え方、人の血、住む場所、仕える主。様々なものを変化させていく。いまの私が身に着けた技術や知識も、数世代で一新されるはず。年老いたら若い者の動きを妨げず、補佐に徹する。この考えも、一族を永らえさせる方法の一つだった。
「ベスを補佐につける」
「ありがとうございます」
母上はすでに承知している。だから席を外した。私が試験に落ちると思わないところが、母上らしい。カランデリア様が同席したのは、新しい一族の導き手を見極めるため。ウルティア本家はベスが継ぐ。私はサポート役として、ベスを支える予定でいた。その覚悟も示せた。
いまはベスが補佐だが、いずれは逆になる。その日を待ち遠しく思いながら、私は部屋を出てベスを探した。愛馬ブリサにブラッシングしていた可愛いベスを呼び、隣でモニカの手入れをしながら説明する。遊んでいたルカが駆け戻り、足元でじゃれついた。
しゃがんで白い腹を撫で、抱き上げて歩き出す。道具を片付けたベスが並び、ルカにちょっかいを出しながら話をまとめた。
出かけるのは明後日の早朝。それまでに旅支度を整え、愛馬の調子も確認する。キロス王国へはサンバドル王国経由の街道が通っているため、馬車は不要だった。森の中を突っ切れば、キロス王国は近い。しかし、森から突然現れる不法入国の不審者になるのは問題があるだろう。
さて、どんな手順でキロス王国を動かそうか。考えるだけでぞくぞくする。




