87.アルバ王家はなぜ気づかない?
数日後、牧場を走る愛馬の手入れに向かった。馬は毎日毛を梳かすのが愛情だ。モニカの手入れに行くと言ったら、ベスもついてきた。ブリサにブラッシングをするのだろう。厩の掃除をして、新しい藁を敷き詰める。居心地がいいよう、藁をケチらないのがコツだ。
「どうだ? モニカ」
中をぐるりと回って、ぶるるん、と鼻を鳴らして返答した。合格ラインに達しているらしい。鼻筋を何度も撫で、もう一度外へ出した。餌や水の入ったバケツを準備し、隣で同じ作業を終えたベスと目配せし合う。
「乗る? お兄様」
腰にフリルでスカートのような膨らみを作ったベスの乗馬服は、胸元にもたっぷりとフリルが使われていた。どこか豪華な感じがする。一緒に同じデザインで作ろうと誘われたが、丁重に辞退した。理由は、可愛いものは自分で着るより、見ていたいからだ。
自分で着用したら、見えないではないか。ベスは可愛い姿をすることで、自分の気持ちを上げる。だが私は見ることで気分がよくなるのだ。理想的な組み合わせだった。ルカが足元に駆けてきて、右へ左へ飛んで騒ぐ。獲物を狩るときに似た仕草は、興奮している証拠だろう。
「ルカも一緒に行くか?」
きゃう!! 大喜びの白い獣が厩舎を飛び出し、勢いよく走っていった。すぐにモニカを呼んで跨る。鞍は不要だった。あれば楽だが、なくても乗れる。すぐにブリサに跨ったベスが後に続き、私達は広い牧場内を走らせた。
その先で柵を見つけ、合図を送る。モニカは慣れた様子でひょいっと飛び越えた。心配しなくてもブリサとベスもついてくる。ルカは柵の間を抜けて、ズルをした。飛び越えられるのに、横着をしたようだ。
草原を走らせ、丘になった場所で馬を下りる。放っておいても二頭がいなくなる心配はない。
草の上に座ろうとするベスへ、ハンカチを敷いて「どうぞ」と手を取る。お道化た所作に「あら、ありがとう」と気取った口調でベスが応じた。くすくすと笑い、大空を見上げる。今日は天気が良く、雲が鮮やかに浮き上がって見えた。
青い空は透き通るようだ。高い位置で回る鳥の影に目を細めた。鷲か鷹だろう。
「ねえ、アルバ王国と戦うのかしら」
「どこまで聞いた?」
互いの手にある情報の札を捲り、すり合わせていく。どうやら父上達は別の情報を渡したらしい。ベスが知っていたのは、アルバ王国がモンタネール辺境伯領へ侵攻する話だった。私はアルバ国王がカランデリア様に喧嘩を売った手紙のことを口にする。
「……馬鹿、なのね」
「そうだな」
カランデリア様がなぜ、我がウルティアの領地に留まったのか。来る途中で、わざわざアルバ王家を挑発したか。少し考えればわかるだろうに。この程度のことが推測できないのなら、王家の教育の質は低いのだな。




