86.傑物三人が囲む一通の手紙
応接用の長方形のテーブルを囲む椅子は四つだ。長椅子が一つとその向かいに二つの一人掛け、奥の正面に一人掛け。夫婦である父上と母上が並んで座るのはわかる。父上とカランデリア様が並ぶわけにいかない。
現在空いているのは、長椅子のカランデリア様の隣と奥の一人掛けだ。だが、奥の一人掛けソファーに大量のクッションが積まれていた。あれは座れないよう、嫌がらせをしているのか? まあ、空いていても中央の席に座る勇気はないが……。
仕方なくカランデリア様の隣に、できるだけ離れて腰かける。長い足を組み、妖艶な微笑みでこちらを流し見るカランデリア様が、すっと距離を詰めた。頑張れば三人座れるスペースがあるのに、一瞬で扉側へ押しやられる。
「私の隣はそんなに、いや?」
「いえ。カランデリア様の美しさについ……気後れいたしました。未熟な我が身では触れ合う距離は烏滸がましく、お許しください」
丁重に「だから向こうで座り直してくれ」と一人掛けの中央を指さすが、笑顔で拒否された。代わりに、すでに開封された封筒を差し出される。
「これを読みなさい」
まず宛名を確認すると、カランデリア様だった。続いて封筒の透かし模様と封蝋を確認し、偽物ではないと判断する。アルバ王家からの正式な書簡だ。取り出した便箋は、手紙用ではなかった。王家が何らかの命令を出す際に使用される、厚みのある滑らかな二つ折りの紙を開く。
――即刻、領地に戻り忠誠を尽くせ
命令口調で締めくくられた最後に、国王の署名があった。念のために掲げて隠し文字がないか確かめ、何もなかった失礼な文面だけの紙を封筒へ戻す。そっと押しやり、カランデリア様の前へ置いた。
「アリスなら、どう対処するかしら?」
試すような母上の言葉に、前置きを一つ。
「私がカランデリア様の立場であれば、真意を問うでしょう。命令できる立場か、どちらが上か、領地がどうなっているか。アルバ王国を離脱するならば、すでに手を打っておられるのでは?」
まずは簡単なところから始めた。どうせ深掘りしてくる。そういう人達だった。王太子レベルの外交課題を平然と子供に振るのだ。食事の際の話題として、またはお茶を飲んで寛ぐ時間のツマミとして。ウルティア一族の本家に生まれた以上、これは最低限の課題だった。こなせなければ本家を出される。
「ふふっ、相変わらずね。確かに手は打ってあるわ。この封書が引き金になって、アルバ王国の命運は尽きるでしょう。だって、モンタネール王国に逆らうんですもの」
元小国の王家の末裔は、新たに国を興すらしい。となれば?
「私達ウルティアを高く評価してくれるモンタネール王国なら、しばらく定住してもよさそう」
「お前がそれでいいなら、わしも構わん」
母上と父上の決断も下りてしまった。ところで、先日サンバドル王国に合流する話をしていた気がするが、あれは保留か? 取りやめなら、連絡が必要だぞ。




