85.気づいても詮索しない
くちゃ……生肉を頬張るルカが、きょとんとした顔で首を傾げる。頭を撫でて「そのまま食べろ」と微笑んだ。私が考え事をしていたのを見抜いたのか。霊獣かどうかではなく、単純に賢くて可愛い。
白い毛皮を汚しながら肉を食べ終えると、ルカは元気に牧場へ走っていった。そのままだと馬に嫌われるぞ、と注意する前に手前の桶に飛び込む。慣れた様子から、いつものことらしいと察した。ぶるぶると水を弾いたルカに、愛馬モニカやブリサが近づく。一緒に走る姿をしばらく見つめた。
「寒いから先に帰るぞ」
夜になって冷えてきたため、声をかけて屋敷に戻る。この領地と屋敷は、曾祖父の代に手に入れた。当時のアルバ王国との密約による報酬だ。そのため彼らに返す理由はなかった。あの様子では王子達は理解していないと思うが……さすがに国王は知っているはずだ。
石造りの屋敷は寒い夜、意外にも冷たくならない。外側は冷えるものの、内側は昼間の蓄熱を保っている。そちらが冷える頃にはまた日が昇って温まる繰り返しだった。部屋の暖炉で火を焚く影響もあり、いつも快適だった。
「お嬢様、冷えておられます」
「ありがとう、バシリオ……」
ふと気になった。バシリオの名前がセシリオに似ている。以前もちらりと思ったが、疑いながら見ると顔も……少し……。
「どうなさいました?」
「師匠、もしかしてだけど……」
「その先は口になさいますな」
執事の顔で拒まれ、私は一つ息を吐いて頷いた。私が知るべきことなら、いつか本人が教えてくれるはずだ。無理にほじくり返すのは、ただの好奇心に過ぎない。相手に対して失礼だろう。
「父上と母上は執務室か?」
「はい。モンタネール辺境伯閣下もご一緒です」
カランデリア様は女性の当主だ。そのため辺境伯夫人という表現は正しくない。だがアルバ王国では、辺境伯の肩書きは夫君が使用してきた。カランデリア様によれば、それも策略の一つとか。いつ発動するかわからない仕掛けを、あの方はいくつ持っている?
底が見えなくて恐ろしい人だ。外見の美しさも相まって、魔性の女性とは彼女を指すのだと常々思ってきた。
「わかった」
すたすたと歩きだせば、後ろについてくる。ベスは夕飯まで眠ると言っていたので、放っておこう。夜会の翌日は基本、何もしないのが一番の贅沢だからな。可愛いベスの目元に隈が出たら、セシリオの顔に青タンを作ってやる!
「母上、父上。失礼いたします」
ノックして、あえてカランデリア様の名前を外す。この部屋の主は両親だった。客がいると知っていても、その名を勝手に口にするのは不敬だ。促されて中に入れば、三人は一通の手紙を囲んでソファーに座っていた。応接セットで空いている椅子は……カランデリア様の隣のみ。
「後で出直します」
背を向けようとして呼び止められ、舌打ちしたい気分で大きく息を吐いた。




