84.愚かな先祖のツケ ***セシリオ
過去の王家が晒した失態で、王族の権威は地に落ちた。祖父の代の話だ。正直、何があったのかも伝聞でしかない。
婚約者のご令嬢がいるにもかかわらず、浮気して平民同然の女性を妻にした。それが祖父の兄君で、婚約を解消された令嬢は儚くなったらしい。記録には病死と記されているが、気に病みすぎて命を絶った。
自分の何が至らなかったのか悩み抜いて、実家に迷惑をかけることを詫びて、ベッドから起き上がれないほど憔悴する。食事も喉を通らず、最後はやせ細って命を落とした。病死というより自殺に近い。その状態に追い込んだ張本人は、その後、さらに騒動を起こした。
王太子の座を弟に譲って得た妻を、己の手で殺したのだ。理由は浮気だった。なんとも因果応報というか、自業自得と称するべきか。某男爵家の令嬢であった妻は、平民として育った。付け焼刃の貴族のルールなど理解できない。
好きな男を奪っただけ、好みの男がいたから寝ただけ。その程度の感覚で、浮気を繰り返した。夫となった元王太子がつけた護衛の騎士まで、寝室に引き込んだという。現場に踏み込んだ夫は妻を切り殺し、自害して果てた。
「なんとも迷惑で、身勝手な話だ」
王族、それも王太子という責任ある立場の男が……浮気して廃嫡される。元婚約者、妻、己と三人の命を消し去った。愚かすぎて頭が痛くなる。その男の血はこの騒動で絶えたが、弟の血筋は残った。それが今の王家だ。
王太子の控えとしての学びは重ねたが、自らはいずれ臣籍降下する。王家に残る準備などしてこなかった弟にとって、兄の暴挙は寝耳に水であっただろう。祖父の立場には同情する。兄のことで当てこする貴族に反論できなかった。
父が王位を継ぐ頃には、王家は針の筵だった。敬意を表するに値しない父の伯父が、何かにつけて言葉に出される。何か意見を通そうとするたび「王家の過去の横暴」として、反論の材料にされた。
クルス公爵夫人は、父王の姉君だ。必死に王家を支えるクルス公爵家をあざ笑うように、傷つけられた令嬢の実家であるロエラ公爵家が台頭していく。互いに傷つけ合う関係の中、父上の奔放さが貴族の怒りを買った。
締め付けられ、不自由な環境に嫌気が差すのはわかる。だが、外に女を作るのは最低だろう。正妃と側妃までいて、なぜ外へ逃げる? それで失敗した父の伯父は、女性を二人も不幸にした。父上は母上を含む三人の妃を不幸にしている。
それゆえに、俺は婚約者の打診をすべて断ってきた。ロエラ公爵は孫娘を王家に嫁がせ、王妃にして傀儡政治を目論んでいる。その恨みは理解するが……俺は俺だ。祖父の兄など顔も知らないし、父上の奔放さは俺も嫌いだった。
助けを求めるように街へ出て、俺はようやく光の一片を掴んだ。救いの光を離せず、必死で縋りつく。ウルティアをこの国に受け入れ、新しく立て直す。そのために邪魔となる父上の退位も視野に入れ、俺は覚悟を決めた。
もうこれ以上、残された時間はないのだから。




