81.貴族が罪を犯すのは王家のせいだ
こうした騒動が続いても、クルス公爵は夜会の中止を宣言しない。どれほど場が荒れても、処分される対象の貴族が増えても、もう後ろへ引かない覚悟を示した。これは大きな変化だ。おそらく父上や母上の鋭い口撃でやられたのだと思うが。
「すまない、過去の負い目があって」
「殿下、それをここで口にされるのはおやめになったほうが」
セシリオとフリアンのやり取りに、割って入った。
「ここで口にするのは? 負い目? そんな馬鹿な発言をしているから、こうして舐められる。彼らが罪を犯したのは、自らの愚かさが引き金だが……基礎を作ったのは王家の弱腰な対応だ。咎められないから増長するし、罰せられないから加速する」
抱いたルカを撫でながら、厳しい言葉をそのまま伝えた。どの程度の負い目か知らないが、それはそれ、これはこれ。詫びは別の形で示し、貴族としての常識やルールは厳しく適用するべきだった。両方を混ぜて曖昧にしたから、現状がある。
「厳しさから逃れると、人の欲はどこまでも肥大する。侯爵が王族相手に無礼を働くのも、娘が父の背を見て真似するのも……のちの王家の首を絞めるだけだぞ」
自分達は我慢すれば、で済むかもしれない。だが、次の代はどう思う? 貴族の頂点に立ち王族として義務を課せられて育つ子供や孫に、同じように我慢を押し付けるのか。
このような状況は負の連鎖を生む。外交で貴族が不手際をして他国の王を怒らせ戦争になれば、傷つくのは民だった。同時に責任を取って首を落とされるのは、王族なのだ。そこまで説明はせず、溜め息を吐いた。
「何とかする気がないなら、そのまま滅びればいい」
「お兄様は結論が早いけれど、私は少し様子を見てもいいと思うの。チャンスを与えてあげるのよ。お母さまもよく同じように仰るでしょう?」
ベスが口を挟み、項垂れたセシリオやフリアンを庇う姿勢を見せた。いや、違うな。庇ったように見せかけ、後ろから殴った感じか。
「私は公爵令嬢として役目を果たしたつもりでしたが、覚悟が足りなかったのですね。王太子殿下、お兄様、ここが分水嶺ですわ」
ビビアン嬢が穏やかに声を発した。今まで黙っていたが、自分なりに考えた言葉を紡ぐ。その姿は前に進む強さが滲んでいた。こういう時の彼女は強いかもしれないな。少なくとも話に聞いた「襲われかけ引きこもる令嬢」には見えない。
「分岐点が必要だと望んだのは俺だ。王太子として、このままではまずいと理解している。彼女を堂々と迎えるためにも、俺はもう引けない場所に立っているのだな」
セシリオがぽつぽつと覚悟らしきものを口にするが、腕の中のルカが大きく欠伸をした。つられて私が、さらにつられてベスにも欠伸が伝染する。覚悟と呼ぶにはまだまだ緩すぎて、話にならない。




