77.極楽鳥令嬢の父は野良犬閣下
娘に対して言われたのか、侯爵本人への言葉か。周囲がざわついた。女性達は口元を扇で隠し、ひそひそと盛り上がる。所々で笑いが起きているのだが、本人は自分を嗤ったと思い込み憤慨し始めた。別の話で盛り上がっている可能性を考慮しないところが、小物だな。
もし自分の話で笑われたとしても、やり返せばいい。できないならスルーするのが貴族らしい振る舞いだろう。親である極楽鳥侯爵がきちんと出来ないから、娘がそっくり真似して落第点をつけられる。その現実も理解していないようだった。
「貴様っ!」
「相手の階級を問うたくせに、答えを聞く前に唸るのなら野良犬レベルだろう。極楽鳥令嬢の父親は、野良犬閣下らしい」
こちらが曖昧に名乗る場合、いくつかの事情が存在する。名乗るレベルの相手ではない場合、何らかの理由で正体を濁している場合。前者は見下しが主な理由だが、後者は複雑な事情が絡む場合がある。身分を隠したお忍びだったら? または探りを入れる間者の可能性も。
すぐに直情的な反応を見せる時点で小物確定だが、これでは侯爵の肩書きと先祖が泣くな。
「ソル侯爵家を侮辱するか!」
「王太子殿下にご挨拶もせず、霊獣を抱く私に牙を剝く存在が偉そうだな。たかだか侯爵だろう。我が一族と肩を並べるには、卑賎に過ぎる」
先祖は優秀だったのだろう。だから当時の王家に爵位を与えらえた。王家の期待に応えるだけの実力もあったはずだ。数世代の間に崩れ、今では見る影もない。先祖が残した権威に縋り、国の次期王たるセシリオを無視する愚鈍の出来上がりだ。
「侯爵家が侮辱されたと騒ぐ前に、お前の言動を見るがいい。王太子殿下は侯爵家より下か? いつからこの国は腐ったのだろうな」
やれやれと呆れを含ませた口調で話を切る。お前の無礼を直してから出直せ、と示した。すると侯爵は矛先を変える。私を攻撃しても倍以上の口撃となって返ってくると察したらしい。
「そこの小娘を王太子殿下に宛がい、王家の乗っ取りを企んでいるのだろうが……そうはいかん!」
お前が言うか? おそらくあの極楽鳥令嬢を宛がい、自分が政権を握ろうと考えただろうに。それが無理なら、ロエラ侯爵の抱える幻の第三王子に嫁がせるか?
口を開きかけたタイミングで、ベスが微笑んで参戦した。
「ソル侯爵閣下でいらっしゃいましたね。ウルティア総領家の小娘ベスですわ。王太子殿下、発言の許可を頂いても?」
「あ、ああ。もちろんだ」
きちんと筋を通すところがベスらしい。母上が満足そうに頷き、カランデリア様が妖艶に微笑む。父上、カランデリア様の笑顔に引いたのがバレると怖いぞ。顔を整えて誤魔化せ!




