75.王家を軽んじる国に未来はない
私の態度を笑ったというより、あまりに節度のない礼儀知らずに対しての失笑だった。気づいたようで、さっと顔が赤くなる侯爵令嬢が扇を広げる。顔を半分ほど隠したが、まだ引き下がる気はないらしい。
ここで引き下がられたら、私としても消化不良だ。最後まで美味しく踊らせるのも、こちら側の技量だからな。
「動物呼ばわりは無礼よ」
「おや、霊獣様を奉る国の貴族令嬢とは思えない発言だな。霊獣ルカは王族より上の地位にいる。その世話係が、ただの貴族令嬢より下だと……誰が決めた?」
お前が無礼呼ばわりしている相手は、お前より立場が上かもしれないぞ。脅しを込めた返しに、後ろの令嬢が一人青ざめた。ゆっくりと後ずさる。そのまま距離を置いて離脱を図った。顔は覚えているので好きにさせる。父上や母上の視線もあるので、家名は特定されているだろう。
残された二人の令嬢も、視線をさまよわせた。あまりに私が堂々としているので、もしかしたら? と不安になったようだ。逆に虚勢を張るように傲慢さに拍車をかけたのが、極楽鳥令嬢だった。
「なんなのよ!」
地団太を踏むような動きで怒りを示す。その幼さに「やれやれ」とぼやいてしまった。
「君は理解していないようだが、ここにおられるのは……これでも王太子殿下だ。次の国王になられる方の前で、礼を失するのは愚行ではないか? 無言で睨むしか能のないガキだが、フリアン殿は筆頭公爵家の嫡男で、王太子殿下の側近だ。敵に回すには大きすぎるだろう」
持ち上げているようで、やや落としながら説明する。敬意を示す気はないし、情けない状態に呆れてもいた。まあ、王太子が庶民の振りでナンパしているくらいだ。この国に過大な期待はしない。
「この国で自由に振る舞ってきたようだから、他国を含めた世界の常識を教えてあげよう。王族はその国の象徴であり、中心になる血筋だ。王族の正当性が失われれば、貴族も同じ。国内貴族の頂点に立つのが王族であり、その血筋を守るのが王家と公爵家である」
周囲が聞き耳を立てているのを感じながら、舞台の上の俳優さながら。大袈裟な身振りで続けた。
「どんな失態をしようと、どれほど愚かであろうと……古い血筋には価値がある。王が無能なら周囲が支える。王にとって最大の使命は血筋を残すことだからな。その程度の認識もないのに、貴族を名乗っているのか? 王族を支える土台が、王族のつま先を踏んでいるのに?」
極楽鳥が絶句して固まる。ひらひら動いていた扇も、ぴたりと止まった。
「今までの常識を疑うべきだよ。親に尋ねてみればいい。王家の方々より私のほうが偉いのよね、と。完全に否定するはずだし、そうでないなら親も滅びる。そのための守護神だ」




