74.笑いの違いが致命的だな
私の対応が無礼だの何だの騒ぐ令嬢達に、微笑んで首を傾ける。うっと黙った四人へ、笑顔のまま現実を突きつけた。
「王太子殿下への挨拶も返事もなしに、一方的に話しかける無礼は驚きだな。サンバドル王国の貴族はここまでレベルの低い教育しかされていないとは、他国では恥をかくことになるぞ」
厳しい言葉を突きつける時ほど、笑顔と声は朗らかに。柔らかく、棘を包んで突きつける。刺さったことを気づかせないくらい、ゆっくり深く。
視線の先で、母上が静かに頷く。口元に美しい笑みを湛えた母上の隣で、カランデリア様がワイングラスを掲げた。乾杯するような所作で、応援してくれるようだ。
「っ、そのような」
「ならば、ただの自殺志願者か? 王族に歯向かい、公爵家に喧嘩を売る言動をして? 迷惑だからよそでやってくれ」
これがアルダ王国なら、とっくに彼女は捕縛されていた。不敬罪というやつだ。王家は国の要であり、楔の一つだった。古い血筋はそれだけで価値があり、国によっては信仰の対象になる。
王家の次期当主たる王太子に対し、挨拶がなく礼も執らずに話しかける? まずここがおかしい。次に、おかしいのは咎めない側の失態だ。王太子に対して無礼であると宣言するのが、側近の役目だった。それがまったく反応しない。いや、睨みつけてはいたか。
斜め前のフリアンを見れば、彼は今も令嬢達を睨んでいた。だが口に出して抗議しない。ビビアン嬢もそうだが、なぜ公爵家が格下の貴族子女に対して黙り込むのか。霊獣の存在だけではない歪みが存在するのだろう。
ウルティア一族は常に、そういった国に寄り付く。しばらくすると離れ、別の弱った国に入り込んできた。歴史を学んだ際に「なぜ、こんな面倒なことをするのか」と尋ねたことがある。あの時、父上はなんと答えたか。思い出そうとした私に、極楽鳥が叫んだ。
「あなた! 侯爵令嬢である私に対して、失礼だわ。名乗りなさい!」
びしっと扇の先で示され、大きく瞬いた。驚いたな、こちらのほうが、よほどお嬢様らしいじゃないか。くつくつと喉を震わせて笑う。
「ルカ、霊獣である君に名乗るよう命じているよ?」
「世話係のあんたよ!」
話を逸らして笑いを取ろうとしたのに、くすっと笑ったのはベスだけだった。セシリオが立ち上がって断じようとするが、正直、遅すぎる。真顔で立ち上がったのも気に入らない。ここは笑う場面だろう。
「ウルティア総領家、長子……アリスと名乗っておこうかな」
「馬鹿にしているの?」
「よくわかったな、意外と賢い鳥だ」
あくまでも人扱いしない。貫く姿勢に笑ったのは、周囲の大人だった。




