73.生肉がないうえ、極楽鳥に絡まれた
ルカに視線が集まっている。まあ、ある意味当然なのだろう。いままで不在だった「霊獣」の座に、彗星のごとく現れたケ・シー様だからな。
自国の貴族ではないと認識する私が連れているうえ、その妹のベスが王太子にべったり。不自然に思い、探りを入れる者が現れるだろう。と踏んだのだが、探りではなく噂が流れてきた。どうやら母上達が先に動いたようだ。
ルカを発見したと聞いて屋敷を訪れ、アリスと会う。その際に同席したベスに一目惚れし、口説いたセシリオが彼女を連れだした。心配なので兄がエスコート役を買って出た。にもかかわらず、阿呆が数匹絡んだらしいと。
ずいぶん詳しく噂を流したものだ。裏の裏の裏まで読んで、初めて一人前。ウルティア一族ではそう育てられる。裏読み程度では、すぐに逆転されるぞ。何度も聞いた言葉だった。そのつもりで捲っていったら、最後に何も残らないパターンもあるが。
「こちらの白い子は、犬でしょうか」
僅かに視線を動かせば、着飾ったご令嬢が一人。その後ろに三人ほど引き連れている。華やかなドレスは色とりどりで、宝石もたっぷり身に着けていた。夜道で誘拐されること間違いなしの、豪華バージョンだ。
私は何も言わずに視線をルカへ戻した。捻じれたツノが額にあるため、ルカは平らな皿に不満そうだ。さきほど牛肉を平らげ、今はビビアン嬢に追加してもらった鶏肉を食べていた。こちらはシンプルに焼いただけで、味付けがされていない。
「全部火を通してしまったの。次は焼かずにご用意しますわ」
申し訳なさそうなビビアン嬢へ「お気になさらず」と微笑んでおいた。このがっつき具合なら、生肉ではないことへの不満はあるが、味は美味しいのだろう。さすがはクルス公爵家、素材は上質だったと見える。
極楽鳥のごとく着飾ったご令嬢を無視したのは、挨拶もなしに話しかけられたからだ。セシリオは聞かなかった振りをし、フリアンは目を細めて睨むような顔になった。ビビアン嬢は視線すら合わせない。となれば、以前もビビアン嬢に絡んだ可能性があるな。
サンバドル王国の公爵家は三つ、その中で年頃のご令嬢がいるのはクルス公爵家のみ。となれば、目の前の極楽鳥は侯爵家以下となる。王太子や公爵家の子女がいる場所に、挨拶もなしに入り込める肩書きは持ち合わせていなかった。
「聞こえていないの? この犬について尋ねておりますのに」
言葉は丁寧を装うが、苛立ちが滲んでいた。そこでようやく顔を上げ、極楽鳥の頭から足の先まで往復して眺める。頭からスタートしてつま先を見てから、また戻る形で頭に視線を止めた。品定めのような所作のあと、ルカの頭を撫でる。
「聞こえていても、聞きたくない場合もある。無礼な極楽鳥と話したくないときは、特に」
さらりと喧嘩を高値で叩きつけた。まあ、本来の極楽鳥で着飾るのは雄なので、用法間違いだが……。




