07.犬でも狼でもなさそうだ
睡眠を削って急いだことで、翌日は全員が寝坊した。昼夜逆転していたこともあり、夜中に目が覚めた者もいたらしい。私は眠れるときに眠る主義だが、夜中に何度か起こされた。ルカは夜行性なのかもしれない。部屋中を走り、ベッドに飛び乗った。
遠吠えをされなかっただけマシ。騒がしいので捕まえてベッドに連れ込んだが、すぐに飛び出して走っていた。抱っこしたら寝ていた頃が懐かしい。わずか数日前のことを懐かしみながら、部屋で眠い目を擦った。
「仕方ない、起きるか」
きゃう! 元気に尻尾を振るこの悪戯っ子も外へ出してやらなくては……その前に首にリボンを結ぶ。野良と間違われて、厩番に追い払われても困る。ぽやぽやした頭でも、着替えはスムーズにこなした。半分眠ったまま身支度を整え、冷たい水に手を入れる。
ぶるりと背筋が震えた。さすがに寒いし冷たい。お陰で完全に目が覚めた。
「おいで」
ルカは素直に近づいてきたので、抱き上げて水へ近づけた。金属製のタライに手を突っ込み、きゃうんと悲鳴を上げる。顔を洗わせようと思ったのに、嫌がって近づかない。タライを敵認定したのか。少し迷ってタオルを犠牲にする。
濡らしたタオルで、ルカの顔や体を拭いた。
「こらっ、不潔にしていると一緒に暮らせないぞ」
馬だって外から帰ればブラシをして蹄の手入れをする。ルカも同じだと言い聞かせながら、丁寧に肉球の間も拭いた。やはり犬とは違うようだ。肉球の爪以外にも硬い部分がある。ぐっと押したら、鋭い刃のような爪? が現れた。離すと引っ込む。
猫ではあるまいし。そう思いながら、不満そうなルカにブラシをかけた。これはお気に召したようで、尻尾が大きく揺れる。ブラッシングは馬で慣れているからな。「私のブラシは評判がいいんだぞ?」なんて笑いながら手を動かした。尻尾を梳かすと何かが引っ掛かった。
「なんだ? これは」
ぐいっと引っ張れば、唸る。一度手を離して、撫でる振りをしながら確認した。
「尻尾が二本?」
犬も狼も尻尾は一本だったはず。それを言うなら、角も生えていないか。まあいい。少なくとも灰色の同種がいたのだから、珍しい動物なのだろう。可愛いし問題ない。
ルカを抱いて部屋を出た。この屋敷では、当主であろうと特別扱いはない。食事がしたければ食堂へ向かい、風呂に入りたければ大浴場を利用する。自室は眠るための場所と考えてきた。
「おはようございます、ベアトリス様」
「おはよう、今日の髪型は素敵だね」
侍女の挨拶にさらりと褒め言葉を加える。いつも屋敷を綺麗に保ってくれる彼女達に、気分良く過ごしてもらいたい。何より、褒めると可愛い髪形やリボンで着飾ってくれるのだ。私も嬉しいし、彼女達も気分がいい。最高だな。
到着した食堂では、すでに父上と母上が席に着いていた。
「おはようございます。早いですね」
「ああ、おはよう。アリス、よく眠れたか?」
愛称で呼ぶ父に頷き、母の隣に腰掛けた。
「母上、そのリボンは新しく購入されたのですか? 初めて見ました」
「よく気付いたわね。やっぱりアリスが一番早かったわ」
その言葉に慌てた父上が「いや、俺も気づいていた」と発言したことで、二人の世界に入ってしまう。いつものことだ。淡々と運ばれた食事に手を付けた。
きゃう! 目を輝かせるルカにオムレツを与え、迷ってからウィンナーを食べさせる。味が濃いかもしれないから、明日は別の肉を用意させよう。




