68.早速、小物がかかった
さすがは公爵家だ。王太子の側近に嫡子を差し出し、本当の婚約者を守るために令嬢が立ち向かった。それだけ、王家との距離が近いのだろう。血の濃さもあり、王家を支持する基盤の一つと思われた。
王家が重用する家が、屋敷や庭に手を抜くはずがない。つくりはもちろん、手入れも素晴らしかった。暮れていく空のグラデーションに、艶やかな花々が映える。色のバランスも美しいし、遠近感も申し分なかった。
「綺麗ね」
「本当に見事だな」
相槌を打ちながら、組んだ腕の指先が数える動きを見せた。ぽんぽんと指先で叩く仕草に、二人の口元が緩む。油断しているように見せる演技というより、阿呆の数の多さに嘲笑が浮かんだ。
たとえビビアン嬢が王妃にならずとも、クルス公爵家の権勢は揺るがない。それだけの権力、財力があると示しているのに……なぜ理解しないのか。貴族社会を生き抜くため、どの階級であっても学ぶべきだ。手を抜いて痛い目を見れば、苦しむのは領民なのだから。
自分が没落する程度では済まないと、どうしてわからない?
近づく足音に、ぱっと振り返る。驚いたように立ち止まった青年は、すぐに軽い咳ばらいをした。
「そちらのご令嬢と話がしたいのですが」
「断る」
ベスではなく、私が対応する。
「君ではなく、そちらのレディに……」
「そうか? もう一度言おう。断る」
重ねて断った。そろそろか? 周囲が痺れを切らして動くだろう。
「俺は彼女に声をかけたんだ!」
「そうだ。無礼だぞ」
「こちらのお方は、バルリング伯爵家の……」
なるほど。取り巻きを使って脅し、家名をナンパに利用する。ビビアン嬢に絡んだのとは別口らしい。伯爵令息なら、公爵令嬢のビビアン嬢のほうが上だからな。払いのけられないとすれば、家の当主だろうか。
「伯爵令息程度で、この子に声をかけるなど……身の程知らずだな」
お前には不相応なレディーだ。はっきり言えば、激昂するか。少し賢ければ、引いて確認するだろう。どちらでもいい。そう思った瞬間、足元のルカが「がうっ」と吠えた。膝に届くかどうかの小柄な犬に見えたらしい。取り巻きの一人が、蹴るような仕草を見せた。
もちろん、野生を生きたルカがその程度の動きに後れを取るわけもなく。あっさりと避けて「がう! ぎゃう!」と大きな声を上げた。焦る伯爵令息が「うるさい」と足を振る。蹴る動きに、ルカへ合図を送った。ぶつからないぎりぎりの距離で、こてんと転がる。
「きゃうん!!」
散々練習した遊びを、ルカは嬉しそうに披露した。指先の合図で、転がって鳴く。ただこれだけなのだが、ルカは遊びとして認識した。楽しそうだ。
「ルカ? なんということだ。これは正式に家に抗議する必要があるな。バルリング伯爵家が潰されなければいいが」
不吉な言い方をして、思わし気に言葉を切った。




