67.覚悟なら生まれた時から
クルス公爵邸に到着した我々を、公爵家が迎える。父である公爵、嫡子フリアン、令嬢ビビアン、夫人は広間にいるらしい。説明されて、丁寧に挨拶を交わした。王太子セシリオは遅れて到着予定だが、ある程度の話は聞いているらしい。
「娘のときは大変だった。そちらのご令嬢は覚悟があるのか?」
公爵の質問に、ベスは美しい礼で応えた。覚悟なら生まれた時から出来ている。そういう一族だからな。微笑みを湛えたベスの堂々たる様子に、公爵は頷いた。そこからは今後の付き合いもあるため、父上や母上と話し始める。私達は「子供同士好きにしろ」というわけだ。
すっと離れて、夜会が行われる広間へ入った。両親やカランデリア様と離れたのは、こちらを獲物として認定させるためだ。保護者付きでは用心されてしまう。基本的には、広間で保護者と会話をしない方針だった。
「こちらにいらして」
ビビアン嬢は兄の手を借り、私達を中央へ招く。クルス公爵家と親しい貴族が、数人寄ってきた。挨拶を交わすと離れる。どうやら根回しはしてあるようだ。不自然でない程度の交流をしながら、ベスのエスコートをした。
左腕をベスに貸して進む数歩前を、ルカが堂々と尻尾を立てて歩いた。まだ成獣ではないルカは、何かが気になるたびに足を止める。踏んでしまうぞと注意し、先を促した。大人しくビビアン嬢の後ろを歩くルカは、何度も私を振り返る。
そのたびに微笑んでやれば、満足そうにまた歩き出した。
「覚えておいてください。ここは安全です」
小さなテーブルで立ち止まったビビアン嬢は、そう口にした。すぐ近くに長椅子が用意されている。これは王族や公爵家の休憩場所のようだ。周りに騎士と同派閥の貴族が集まり、警戒していた。以前にビビアン嬢を傷つけようとした事件は聞いているが、かなりピリピリした雰囲気だ。
公爵家の令嬢ならば、他国の王族に嫁ぐこともあった。政略の道具としてはもちろん、その地位と肩書きはどの貴族から見ても価値がある。その令嬢を傷物にしようとした連中に、彼らも仕返しをしたいと考えているのだろう。
「お兄様、私……あちらのお庭が気になるわ」
「そうだな。王太子殿下が到着されるまで、庭を見せていただこう」
わざと隙を見せる行動をとる。目を見開いたビビアン嬢は、扇を広げて顔の下半分を隠した。口元から「本当に強いのね」と聞こえた。
「あなたも十分お強い。こうして人前に立っているのですから」
衆目を集める場にいるのは、震えるほど怖いはずだ。それをおくびにも出さず、平然と振る舞うことの難しさを……私は知っていた。王子妃として振る舞うよう強要されたあの時期に、嫌な体験をしたのだから。まあ、襲い掛かる馬鹿はすべて仕留めたが。
「失礼しますね」
ベスが無邪気に「こっちよ、お兄様」と腕を引っ張る。
「おいで、ルカ」
きゃう。はしゃいで足元に絡みつくルカに口元を緩めながら、庭へ足を向けた。ついてくる視線を数え、愚かな獲物を引き連れて。




