65.全員お揃いのルカ紋章刺繍
身についた作法を確認し、衣装を仕上げた。公爵家の公式な夜会であるため、奇抜な格好は場違いになる。王太子セシリオからの要請という形で、招待状は四通受け取った。
私、ベス、ルカ、予備だ。最後の予備は誰を呼んでも構わない。通常は宛先が指定されるが、無記名だった。一枚につき一人の同伴が許されるため、予備一枚で二人参加可能だ。
「当然、私とカランデリア様よね」
母上の宣言に父上が無言になった。夜会に夫以外と参加する妻……ケガや病もない健康な夫を連れてこない理由を勘繰られるが、構わないのだろうか。いや、問題だから父上が黙り込んだのだろう。そうでなければ、相槌を打つはずだ。
「父上、その……私の同伴では?」
「それなら私でしょう」
ベスがにっこりと助けの手を差し伸べた。ほっとした顔の父上が頷くより早く、カランデリア様から訂正が入った。
「そこはご夫婦が一枚、私がアリス殿と同伴ね」
「あら、私の保護者で構わないと思いますわ」
ベスがカランデリア様に一言。睨みあった後、ふっと笑うカランデリア様が「いいわよ」と目元を緩めた。こういう女性同士の機微が理解できない。何をやり取りして、どこで勝敗が決まるのか。いつもわからないまま宴が終わっていた。
ルカと私も同伴で一枚でよかった気がする。あと二人同行可能だが、連れていきたい人物が思い浮かばなかった。いざというとき己の身を守れて、貴族同士のチクチクしたやり取りに慣れている人物……うん、やっぱりいないな。
分家の当主を連れて行くのもおかしいだろう。
今回の衣装は、一部分だけお揃いにする。全身揃えると、王太子セシリオの衣装も変更になるからだ。婚約者の振りをするのに、まったく違う装いは違和感が出るからな。濃桃のスカーフを男性陣は胸元に差し込むことになった。
事前にスカーフは送るが、その前に刺繍の上手なカンデラが、ルカの模様を刺した。見事な出来栄えのスカーフを丁寧に包み、セシリオへ送る。同じ刺繍を施したスカーフをもう一枚、これは父上の胸元を飾る予定だ。
女性はリボンやハンカチに刺繍を頼んだ。カランデリア様はハンカチへの刺繍を希望した。母上とベスはリボンだ。迷った私に、ハンカチとリボンタイが用意された。
「飼い主なんだから、二つあってもいいわよね」
カンデラはにっこり笑うが、かなり無理をしたのだろう。目元に隈ができていた。その部分にそっと指背で触れ、優しくなぞる。
「すまない、無理をさせた。ありがとう。素晴らしい刺繡だ」
囁いたら「やだ、もう無理ぃ」と泣きだしてしまった。そんなに無理をさせていたのか、本当に申し訳ない。




