63.変な奴だな、アマンド
方法はわからないが、バシリオが消せると断言した。その言葉を聞いて、ベスはほっとした顔で「バシリオが言うなら安心です」と呟く。
我が家でのバシリオへの信頼は厚い。なんといっても、緊急事態には当主代理権限が与えられる本家の執事だからな。加えて、彼が今まで勤めてきた態度や言動もある。嘘を吐かず、常に誠実だった。本人が積み重ねた実績だから、誰も文句はない。我が家の要の一人だった。
きゃう、がう! ルカの声に振り返る。警戒の滲んだ鳴き声は、近づいてくる人影に対してのものだった。広げた敷物の上で寛ぐこの場所は、ウルティアの領地内だ。外部から侵入したとは考えにくい。足首に隠した暗器に手を伸ばすも、引き抜かずに待った。
「休んでるとこ、悪い。伝令だ」
アマンドだった。革鎧の小手をつけている様子から、訓練中に伝令を頼まれたのだろうと判断できる。馬を走らせたアマンドは、手にした筒を手渡すと敷物の横に座り込んだ。かなり飛ばしたのか、馬の息が上がっている。
敷物に座れと伝えて、受け取った筒を開ける。中に短い手紙が入っているのだ。
モニカが呼ぶように啼き、少し先の小川へアマンドの馬を誘導した。ルカも一緒についていく。ぼんやりと見送るアマンドへ、ベスが水筒を差し出した。
「どうぞ」
「ありがとさん……しっかし、似合うなぁ」
「ありがとう」
笑顔でお礼を言うベスに、アマンドは頬を指でぽりぽりと掻いた。
「まあ、アリスも似合うけどさ」
「ああ、ありがとう」
気を遣わせたか? ベスの女装を褒めたついでに、私の男装も褒めたようだ。こういう気遣いは貴族受けするぞ。いいご令嬢と巡り合えばいいが。以前にそう口にしたら、苦虫を噛み潰したような顔をされたので、言わないようにしている。カンデラの「うわぁ、さすがに可哀そう」の一言は刺さった。
手紙に記されていたのは、父上の判断だった。ウルティア一族は、サンバドル王国の自治領として併合される。外交交渉で何か動きがあったのだろう。大して急ぎの案件でもない。戻ってからでも間に合うのに、どうして今、アマンドに運ばせたのか。
「どう思う?」
ベスに手紙を渡すと、読み終えてからもう一度目を通して答えた。
「事実上の「戻れ」だと思ったほうが良さそう」
同じ結論に達し、苦笑いして立ち上がる。手を差し伸べてベスを立たせて、首を傾げる。アマンドが座ったままだ。
「手を貸そうか?」
「いや、そうじゃなくて」
逆だろとか何とか。口の中でぶつぶつ言って、大きく溜め息を吐いた。
変な奴だ。




