62.やはり乗馬はいいな
翌日は約束通り、乗馬を楽しむ。羽を伸ばせると思ったのに、カランデリア様に見つかった。ベスは横乗り、私は紳士的なエスコートの練習だ。ブリサは乗ってもらえば嬉しいようで、ご機嫌だった。尻尾が大きく左右に揺れている。不満そうなモニカは、全力疾走したかったようだ。
首を撫でて落ち着かせ、ルカに尋ねる。
「どうする? 乗っていくか、走るか」
きゃうっ! くるくると回り、そのままルカが走り出した。犬か狼のような外見のルカは、耳を倒して本気で走る。目を輝かせたモニカが追いかけた。
「うわっ、モニカ?」
ぶるるんと答えるモニカに止まる気はないようで……あっという間に、ベスと引き離される。無理に手綱を引くのも気が引けて、ある程度好きに走らせた。追ってきたベスは慣れたのか、横乗りでもスムーズだ。愛馬ブリサが合わせてくれるのもあるだろう。
「すまない、モニカが暴走した」
「平気です。ルカって足が速いですね」
感心するベスの声に、ルカが返事をする。きゃう、と愛らしい声だった。馬に踏まれぬよう気を付けながら、尻尾を揺らして走り回る。ストレス解消になったなら何よりだ。母上やカランデリア様は追ってこなかったので、林の手前で休憩した。
「バシリオが用意したバスケットだが、ちゃんと敷物が入っているぞ」
「そういえば、お父様が捕まっていたけれど?」
「書類を放って母上のところへ行こうとしたらしい」
バスケットから引っ張り出した敷物を広げ、まずはベスを座らせる。馬達は慣れた様子で勝手に歩き回っているので、放置した。どこかへ行ってしまうほど奔放ではない。信頼関係があるので放置が可能なのだ。
「ありがとう、お兄様」
「どういたしまして」
にこりと笑えば、ベスは少し躊躇って口を開いた。
「昨日の……傷の件ですが。私はカッコいいと思っています。言い方が悪くて、嫌な思いをさせたのはごめんなさい」
この子は傷を負ったときから態度が同じだ。
国王へ向かう刺客に気づき、駆け寄った。あのとき、もし……一族慣例のドレスを着ていたら。隠し持った短剣で攻撃をいなしただろう。十分間に合う距離だった。にもかかわらず、手傷を負ったのはドレスが原因だ。
あの日は、他国の使者が訪れる夜会だった。ドレスは婚約者と揃いの色で用意されており、義務だからと押し切られた。傷を負った時は痛みより熱を覚え、怒りに任せて刺客の武器を叩き落とす。着飾った令嬢が襲い掛かると思わなかったらしく、武器を奪われた男は自害して果てた。
あの騒動で、最初の一閃が頬をかすめた。そうだ、かすめた程度の傷でしかない。見た目は派手だが、切れたのは薄皮一枚。
手で傷をなぞり、私はベスに明るく言い放った。
「嫌な思いはしないさ。これは油断への戒めであり、騎士として主君を守った誇りだ。消せると聞いたが、今のところ残すつもりでいる」
「……消せる? はぁ?! ……えっと、その……消せるとは、驚きです」
淑女とは思えぬ、弟としての素の反応を見せたベスは、慌てて取り繕った。安心しろ、母上達には言わないから。




