59.お茶会の続きで、新情報
ビビアン嬢が予想外の申し出をした。というのも、クルス公爵家としてもこのまま「やられっぱなし」では終われない。夜会を開くので、そこで罠にかけてはどうか? と提案されたのだ。貴族は面子と見栄で生きている。その考え方は、王族に次ぐ公爵家らしく納得できた。
我々にしても、開催主が味方に付くなら楽だ。さりげなく王太子セシリオのエスコートで登場するベスが、敵の目を引くだろう。だが隣に守護獣ルカを連れた私がいたら……話は違ってくる。手を出せば、すぐに霊獣への不敬で処罰可能だった。
だが、この程度の罠で本当に引っかかるのか? うーんと唸った私に、セシリオが一言。
「引っかかると思うぞ」
付け加えられた理由に、なるほどと頷いた。この国は基本的に、策略が発展していない。国民の気質なのか、正面突破の傾向が強かった。その意味で、リベジェス伯爵夫人は異端だ。サンバドル王国民らしくない。
「リベジェス伯爵夫人か? あの方は、隣国の出身だからな」
思わぬ情報に、掘り下げて尋ねる。
「隣国とは、アルバ王国?」
頷いたセシリオが説明を続ける。
「ああ、知らなかったのだな。たしか……元侯爵令嬢と聞いた」
そこまで聞いて、ようやく思い出した。婿入りするはずの伯爵令息が、平民の娘を愛して囲い込んだ。結婚前の浮気に切れた令嬢は、平民の娘を探し出して家族ごと処理した。殺しはしなかったが、その娘の胸元や背中には火傷の跡があったはず。
「浮気相手の家に火をつけた事件か」
「ずばっと言うな! まあ、その通りだが……」
なるほど。それで隣国へ嫁に来たのか。実家の侯爵家は親族から養子をとった。醜聞まみれの娘を庇うなら、同じ社交界に置くことはできない。伯爵令息はそれでも平民の娘を選び、貴族籍を抹消された。
王子妃候補だった際、王宮で聞いた話だ。なんとも後味の悪い話だと思ったが、当事者がここにいたとは。ならば、彼女は私を知っているはずだ。
「イラリオの婚約者だった私に対し、何も指摘しなかったのは作戦か」
頷く私に、ベスが突っ込む。スコーンをもらえず拗ねたルカは膝で眠っていたが、もぞもぞ動き出した。そろそろ目が覚めそうだ。
「全然違うと思う。お兄様は意識してないと思うけれど、女装……というか、正装で化粧したお姉様は美女なんだよね。傷もかなり薄くなって目立たないでしょう? だから、本当に同一人物とバレていない可能性が高いよ」
事情を知らない人が聞いたら意味が通じない。ベスの説明に、この場にいて事情を知る面々は素直に頷いた。美女かどうかはともかく、それなりに見れる姿だっただろう。
「バレないよう接触を控えるか。逆に積極的に押していくか」
口にしながら表情が変わる。口角が持ち上がった私に、ベスは首を横に振った。
「鏡で顔を見たらどう? お兄様」
きゃう! 膝の上のルカも同意した。




