58.守護獣の地位は王族より?
王太子がお茶会を開く。側近の公爵令息と元婚約者候補の公爵令嬢が同席する。この情報で動いた者がいて、こうして針を仕込んだ。自然と口元が緩んだ。
「どうした?」
「いや、この国でのケ・シーの地位はどうなっている?」
質問に質問を返す。怪訝そうな顔をしたセシリオだが、はっとした顔で私の手元を凝視した。ということは、以前にビビアン嬢に対しても同じような悪意があったのだろう。
「混入、か? 守護獣は王族より上だ」
王族より国の守護獣が上。ならば、これも使うべきだろうな。
「針です」
二つに割ったスコーンを皿の上に置いた。針は、見えにくい裏側から刺されている。つまり針の先が上に向いた状態だった。食べたら刺さるが、それ以前に一般的に淑女がスコーンに齧り付くことはない。
ここまで説明して、別のスコーンを手に取った。そちらも横から半分に割ってみる。片っ端から試した結果、偏った結果が判明した。編み籠の左側半分のスコーンにだけ、針が発見される。つまり現在、女性が座っている側だ。
「明確な悪意だな」
相手を限定した悪意だと突き付ける。セシリオが執事を呼び、針を見せて犯人捜しを命じた。その間に、フリアンが周囲を観察する。こういった手配はできるのだなと感心した。不審な動きを見せる侍女がいなかったため、給仕以外の使用人も調査したほうがよさそうだ。
「セシリオ殿下」
いきなり敬称を付けたため、彼が妙な動きで振り返った。呼び捨てが当たり前でも、執事などの前でできるわけなかろう、この阿呆が……。舌打ちしたい気分の時ほど、にこやかに微笑む。我が家の女傑の教えは、本当に為になる。
「執事殿への指示に訂正を。狙われたのはご令嬢ではなく、守護獣ルカです」
「……そうだな、訂正しよう」
セシリオは一瞬固まり、すぐに表情を引き締めた。婚約者候補の女性が狙われても、それは嫉妬ゆえの可愛い悪戯と逃げられる可能性がある。「そのくらい躱せて当たり前、守られるだけの女に未来の王妃は務まらない」とケチをつけられたら、軽く飛び蹴りかますぞ。
ターゲットを可愛いベスではなく、白くてもふもふで可愛いルカに挿げ替える。問題が大きくなるうえ、国としても見なかった振りはできないはずだ。王族より上の地位にいる守護獣の食べ物に、針を故意に混入? それも複数だ。
可愛いルカがいかに賢く可愛いとしても……習性は獣だ。食べ物を目の前にしたら、本能に従い齧りついた可能性が高かった。まあ、うちの可愛い……何度でも言うが、可愛いルカがそんな粗相をするわけないが。
一般的な常識で考えたら、ルカの暗殺未遂と置き換えることも可能なわけだ。青ざめた執事が下がるのを見送り、フリアンを手招きする。頬が触れる距離で、こっそり耳打ちした。
「危害を加えられたら、すべてルカに対する不敬として処理する。そのために私とベスを引き離さないよう、手配しろ」
軽く目を開いたフリアンは「わかった」とだけ返した。だがその口角が持ち上がっている。妹ビビアン殿の仕返しも兼ねて、派手に行こうか。




