48.美しいから怖い人
王太子セシリオが霊獣『ケ・シー』と断定したことで、飼い主の私も堂々と王宮に入れる立場を手に入れた。父上はまだ決断していないようで、サンバドル王国への合流は先延ばしになっている。今回の私達の活躍とその後の対応で、態度が変わるはずだ。
そんな雑談をしながら、ルカを連れて部屋を出る。カランデリア様の視線が、何だろう……怖いのだ。いい毛皮ね、と口にされたのも怖い。マフラー要員として狙われていないだろうか。外へ出てぼそっと呟いたら、セシリオが静かに同意した。
「なんというか、美しいがゆえに怖い人だな」
「そう思う?」
頷こうとした私はぴたりと止まり、後ろから聞こえた声に振り返ることも出来ない。ベスは目を見開いて固まり、ルカが腕の中でぶるりと震えた。立ち直るのが早かったのは、セシリオだ。
「ええ、美しすぎると怖いですよ。まるで人ではなく女神様のようですからね」
「あら、上手だこと。アリス殿もこのくらいは言えないと……王宮では務まらなくてよ?」
「精進いたします」
未熟で申し訳ないと素直に頭を下げた。実際、その人に聞こえる場所で口にしたこちらのミスだ。恐ろしい相手ならなおさら、尻尾を掴まれないよう注意するべき。当たり前のことを忘れていたのは、実家で気が緩んでいるせいかもしれない。
今後を考えれば、気を引き締めるべきだ。うっかりでは済まない可能性も高い。突然現れた霊獣の飼い主と、婚約者を名乗る少女。王宮貴族どもの格好の餌食にならないよう、自衛意識は高く保つ。
「しばらく王宮へ行くのよね。その子は私が預かろうかしら?」
「いえ、王宮へ霊獣の届け出が必要です」
セシリオがばっさりと流れを切り、意外な強さを見せた。この勢いなら、本物の婚約者を守れるだろうに。それでも防げないのなら、本当に気を引き締める必要がある。
きゅぅ! 甘えた声を出すルカに、カランデリア様が指先を伸ばした。くんくんと匂って、頬をすり寄せている。危険を感じてないようだ。
「妹もこの子も、きちんと守ってこそウルティアよ。わかるわね?」
念を押すカランデリア様の目を見て、しっかりと頷いた。去る彼女の歩き方をじっくり眺め、ベスが真似をする。
「こう?」
「いや……もう少し、こう」
何度かやり直したところ、上手に再現できた。ベスがすぐに習い、自分の技術として習得していく。短い距離なら誤魔化せるが、普段からずっとは難しい。ウルティアで鍛えた私ですら、足がつりそうになる。かなり筋力を使って姿勢を維持しているようだ。
「君たち一族のその向上心? 不思議だよね」
セシリアが首を傾げるが、後回しだ。向上心をなくした当主に率いられたら、一族や領民が可哀想だろう。常に頂点を目指すのが役目だからな。




