44.鳴かない獣は狩られない
私の乗馬は特に叱られなかった。注意する点が見当たらなかったようだ。ウルティア一族は幼い頃から当たり前に乗馬するので、多少の癖があってもお淑やかな乗り方などしない。実用性一辺倒で無駄を削ぎ落した所作は、合格ラインだった。
乗り慣れているのはベスも同じなのだが、服が問題だ。外出時にドレスを着れば、馬車に乗る。至極当然とばかり行ってきたが、お陰でドレスでの乗馬経験がほぼなかった。ほぼ……なのは、緊急時にドレス姿で飛び乗ったことがあるから。しかし作法通りとはいかない。
「まず、乗るときに一人で座ってはダメよ」
「台が用意されるし、侍従か婚約者の手を借りるのがいいわね」
なるほど。私も知らない作法に頷く。すると背中を叩かれた。
「他人事みたいな顔しないの! 兄が手を貸してもいいのだから、支えてあげて」
「わかった」
エスコートのように手を貸し、ベスの足や腰を支える。コルセット風に絞っているとはいえ、細い腰だった。折れそうで怖い。横に座ったベスの裾をさっと直す。膝より上は絶対に人目に晒さない、これはどの国も共通の作法だった。
「乗せ方がスマートじゃないわ」
「見本を見せてあげたら良いのではなくて?」
母上のクレームに、カランデリア様が微笑んだ。なるほどと頷いた母上が男性役、カランデリア様が乗る手助けをする。自然というか、あまりにスムーズで驚いた。なるほど、ああやって抱えたら安定するのか。細かな部分を食い入るように眺め、脳裏に焼き付けた。
武術もそうだが、基本的に我が家は目で見て覚えろのクチだ。丁寧に手取足取り教えてもらった覚えはない。その意味で、王宮の勉強も似たようなもので……知っていて当たり前の態度で授業が進んだ。そのやり方に慣れている私だからいいが、そうでなければ大変だっただろう。
あとで母上にその話をしたら「あなたは馬鹿にされているの」と呆れられた。なるほど、田舎娘が……と嫌がらせをされたのか。
理解した次の授業で、礼儀作法でかなり無理な要求をされた。微笑んで「ではお手本を」と促したら、顔色が青くなったり赤くなったり。結局できなくて、教師交代となった。あの時はすっとしたものだ。
目の前で行われた所作は美しく、お手本に十分だった。しっかり覚えたぞ。下りるときの所作も確認し、頷く。隣のベスに袖を引かれた。
「忘れないうちに実践しましょう」
「そうだな」
すぐにベスの愛馬ブリサを呼び、その背に乗せた横乗りの鞍に押し上げる。腰を支え、やや持ち上げるような形で安定させ、ベスも優雅に裾を押さえながら座った。よし、これを体に覚えさせれば完璧だ。小さな部分をいくつか指摘されながら、六回目で及第点をもらった。
いつもなら「先に行く」や「遅いぞ」と騒ぐアマンド達も、無言で見守っている。賢いな、鳴かない獣は狩られない。




