42.息抜きのはずが母上達も加わって
カランデリア様が滞在して二日目。案の定、お二人とも二日酔いにはならなかった。ベスと礼儀作法の復習をしていると、アマンドが顔を覗かせた。
「……何してんの?」
呆れ顔と声に、事情をかいつまんで話す。この手順も面倒になってきたので、一族内なら話を広めて構わないと付け加えた。にやりと笑う悪ガキに、これで手間が省けると肩を竦めた。
「乗馬の誘いだったんだけど、行けそう?」
「気分転換をするか」
詰め込むだけの勉強では息が詰まる。少なくとも、私が王宮で学んだ時はそうだった。ひたすら知識や作法を並べ立てられ、うんざりしたものだ。息抜きは重要だろう。
「ベス、一緒に乗馬に行かないか?」
「ドレスでの乗り方も覚えたほうがいいかも」
サンバドル王国では、女性は横向きの鞍を使用する。アルバ王国と違い、女性用乗馬服はなかった。ズボン姿なので跨って乗れるのが利点だ。横向きに乗るなら、ドレスでの練習も必要になる。そういった作法は女の子のほうが詳しそうだな。
自分の性別を棚に上げて、そんなことを思う。
「グラシアナとカンデラを呼んでくるよ」
年齢が近いこともあり、この三人とはよく遊ぶ。先日の街へ出る勝ち抜き戦でも、彼と彼女らは優秀だった。一族の長となるシルベストレの側近として期待されている。頷いた私達に手を振り、アマンドは勢いよく走っていった。
「なぁに? ドレスで馬に乗るの? 横向きよね」
聞いていたカランデリア様が、にっこりと満面の笑みで同行を申し出る。一緒に行って教えてくれると言われたら、断りにくい。そこへ母上も悪ノリした。
「いいわね、私達もドレスで乗る?」
「じゃあ、着飾らなくちゃ!」
返事をしない間に、いつの間にか確定していた。きっぱり断れなくてすまない、ベス。笑顔の引き攣った弟……今は妹の肩を引き寄せた。気のせいか、震えているようだ。
「ベス、大丈夫だ。無茶はさせない」
「信じています、お兄様」
そんなに怖がらなくても、馬には個々に跨るのだし……乗る馬だって愛馬じゃないか。私はモニカに跨るし、ベスはブリサに乗る。不安になる理由は母上達だろうか?
王宮へ出かけることが多かった私は、カランデリア様と母上の暴走を知らなかった。勉強で留守にする間、その相手をさせられたベスがどれほど大変だったか。理解しないまま、アマンド達の到着を待つ。母上とカランデリア様の着替えもある。
「ブリサの鞍、あったかな……」
ふと呟いたら、バシリオに「用意がございます」と返される。いつから聞いていたのやら。有能すぎて怖いぞ、師匠。




