41.努力が足りなければ終わる
夕食の席でカランデリア様から聞いた「武勇伝」に笑顔が引きつる。第二王子イラリオのやらかしは、さすがにどうかと思った。だが国が傾くほどの事件ではないはず。
「さすがカランデリア様です。見習いたいですわ」
すっかりベスが身に付いたシルベストレが穏やかに切り出し、私は考えるのをやめた。心配する義理はないし、やらかしたのは王族だ。アルダ王国は建国二百年程度で、ウルティア一族より歴史が浅い。
盛者必衰、いつかは滅びるものだ。長く続く一族は、相応の理由があった。圧倒的な武力があろうと、知力を誇ろうと、存続する意志が重要だった。きちんと線引きをして身を守る。面目も大事だが、それ以上に実を重んじる。当たり前の積み重ねが一族を延命させるのだから。
「ところで、面白そうなことしているのね。事情を聞かせてよ」
カランデリア様は姉弟が、兄妹に変わった事情に興味があるようだ。母上が説明を始めると、新しいワインが運ばれてきた。ぽんぽんと栓が抜かれ、次々に空瓶が増えていく。穴の開いたザルで例える国もあるが、この二人は筒だろう。底が抜けている。
翌日も絶対に二日酔いにならないのだ。驚愕を通り越し、自然と笑みが浮かんでしまう。感心するのとも違うが、似たような感情が浮かんだ。
「アルダ王国は自衛に専念するしかあるまい」
ぼそっと父上が零した言葉で、カランデリア様の行動の意味を知る。平和に慣れて、最前線に立つ者らを蔑ろにした。そのツケは怖いぞと釘を刺したのだろう。モンタネール一族が離反し、元の小国に戻る。同時に、我がウルティア一族もサンバドル王国へ根付こうとしていた。
国境が丸裸となり、戦える人材が根こそぎ消える。アルダ王国滅亡の鐘は鳴ったのだ。あとは他国が攻め込むか、内部闘争で自滅するか。どちらにしろ長くないだろう。新しい国が興るのも時間の問題だった。
「足元を見ない奴は転ぶよね」
笑顔で口にしたシルベストレ……いや、今日からベスと呼称しよう。この子は立派な婚約者のフリをする努力を重ねている。女装が趣味でも、女になりたいわけではないのだから。それでも一族の取り引きに利があると考えた。だから努力を惜しまない。
私も同様、それ以上の努力が求められる立場だった。男装では済まない。男になりきるつもりで所作も口調も仕草も作り上げよう。改めて覚悟を決めた。
「ちょ……そのワイン高いのよ?」
「ケチなこと言わないで。美味しいんだもの」
数本飲んだら、味のいい高価なワインを選んで楽しむカランデリア様。呆れたように注意するが、本気ではない母上。仲のいい友人同士の姿に、私もそんな友人が欲しいと思った。少なくとも対等に付き合える相手を見つけてからの話だが……。




