39.王宮へ絶縁状を叩きつけた?!
到着した一行を前に、どう挨拶したものか迷う。母上の言葉通りになったようで、カランデリア様は正面突破を決行した。アルダ王国の横断どころか、蹴散らしての到着だ。なお、復路は船に乗って帰るらしい。さすがに疲れたとぼやきながらも、ほぼ無傷だった。
「アグスティナ、元気そうでよかったわ」
「カランデリアこそ、随分とはしゃいじゃって」
はしゃいだで片づけていいのだろうか。お付きらしい一団は、やや埃で汚れている。かすり傷は数人いるようだが、大きなケガはなかった。アルダ王国を抜ける際、数回やりあったと笑って話す美女は鎧を放り出す。簡易な革鎧だが、これを着用すること自体が国に敵対する証なのだろう。
「ちょっと通してと言っただけなのに、止めようとするのよ? 本当に酷いんだからもう!」
ぷりぷりと怒りを表現するカランデリア様には悪いが、どうみても謀反を企む集団にしか見えない。それが国境を守る辺境伯家の一団で、武装して王都を抜けたとあれば……討伐対象に等しいのでは?
「カランデリア様、質問をよろしいでしょうか?」
丁寧に尋ねると首を傾げて待っている。質問権を得たようだ。豊かな黒髪の巻き毛を、手櫛で整えながら私を見つめた。
「なぜ海路を使わずに?」
「楽しそうだからよ。それにアルダ王国に離脱宣言するついでね」
ご機嫌で言い切られ、アルダ王国が気の毒になる。カランデリア様の説明によれば、武装した状態で王宮へ押しかけ、絶縁状という名称の契約解除書類を置いてきたと。契約解除書類の表現に考え込めば、母上が教えてくれた。
「モンタネールは、元々独立していた小国なの。それを先々代が契約して、辺境伯家として取り込んだ形ね。契約だから、条件を変われば解消可能よ」
独立した小国を契約で縛ったのなら、解約すれば……それは独立国となる。モンタネール国の女王? 頭の中で情報を整理しながら頷いた。ここまでは理解できた。
隣では淑女の微笑みを湛えたまま、シルベストレが固まっている。たぶん、内容を消化できていない。後で解説するからと伝え、女傑二人の交流を眺めた。父上は蚊帳の外で、カランデリア様の護衛達と何やら慰め合っている。
「夫は留守番で置いてきましたの。一週間ほど、お世話になりますね」
執事バシリオに滞在予定を告げ、頭一つ低い母上と手を組んで歩き出す。身長差のある二人を見送り、肩の力を抜いた。父上経由で聞いた話では、アルダ王国の王宮へ絶縁状を叩きつけ、そのまま追っ手を引き連れて街道を走ったとか。
すでに姿の見えない客間の方角を見つめ、大きく息を吐いた。騒がしくも頼もしい人だ。ウルティア一族にとって、カランデリア様は力強い味方になる。
ところで……アルダ王国の面目は丸潰れだが……問題ないのだろうか。




