37.アルダ王国の反対側から
「淑女がそのような……」
叱られそうになったので、すかさず今回の作戦を説明する。話しながら廊下を歩き、バシリオの部屋まで来た。我が家は使用人であっても、基本は個室が与えられる。臨時雇いの場合は、相部屋のこともあるが……バシリオは王都邸の執事を務めた。当然、個室だった。
そもそも、ウルティア本家に執事は「一人しか」いない。一族が王都へ移動すれば同行し、領地へ戻れば采配を振るう。執事は一人、代行が二人、それでトラブルは起きなかった。したがって、今もウルティア本家の執事はバシリオだ。
「なるほど、そのような事情が……」
頷きながら、彼の手がぴしっと尻を叩く。びくっと背筋を伸ばした私に「その位置で」と動かないよう指示された。ぐるりと一周回って、注意点が並べられる。立ち姿にすら、十数個の修正点が突き付けられた。
「お嬢様、一時的であれ本気でやらねばなりません」
「わかった」
私の所作の修正はバシリオに任せる。シルベストレは母上と私で注意することにした。休憩するバシリオを部屋に残し、決めた内容を説明する。なぜか父上が拗ねた。
「俺の役目はないのか」
「でしたら、私の指導に回ってください」
てっきり忙しくて無理かと外したのだが、仲間外れにされた気分だと不満を表明された。こういった機微は私よりシルベストレのほうが敏感だ。そんな状態で、可愛いベスはスカートの裾を気にしていた。足を揃えて座ったのに、裾が上がってしまうとぼやく。
「足をほんの少しだけ左に、そうだ……つま先をずらす感じで」
女性の足首は柔らかい。これは男女差なので仕方ないが、骨格の問題だった。ほんの少し足を左に流せば、持ち上がっていた裾が落ち着いた。武術を習った私もつま先を開く傾向があり、同じ注意をされた経験がある。やや斜めにすることで、自然とつま先が揃うのだ。
「二人には大急ぎで仕上げてもらいます。もちろん、一族総出で」
母上の指示で、わっと人が動き始める。どこへ行くにも「嫡男」と「妹君」として扱われ、馬の乗り方も細かく直された。ベスのための衣装が届き、試着すれば人が集まる。着飾ったベスは得意げに歩き、一族の女性達に細かな点を注意された。それすら楽しみ、娯楽になりつつある。
「奥様、手紙が届いております」
装飾品の梱包を開く使用人から受け取った箱を開く。どのドレスと合わせるか相談していた私は、バシリオが母上に渡す手紙が気になった。封蝋は美しいマリンブルー、帆船に似た紋章はモンタネール伯爵家のものか。
「カンデラリア様からね」
当たりだったらしい。モンタネール伯爵夫人カンデラリア様も、母上と同じ家付き娘だ。夫を婿として迎え、家を盛り立ててきた。境遇と年齢が近いことも手伝い、昔からとても仲がいい。国を横断する領地の距離など気にしなかった。
「近いうちにお会いできそう」
微笑む母上を見て、背筋がぞくっとする。嫌な予感がした。こういうのはよく当たるから気を付けよう。まあ、何を気を付けるか、わからないのだが。




