32.公式に存在しない第三王子
「ベスの許す範囲で協力しよう。ところで……」
意味ありげに言葉を切る。ちらりと父上に視線を向け、話のつじつまの合わない部分に切り込んだ。
「先日、ロエラ公爵経由で第三王子を紹介されたのだが、アレはなんだ?」
ロエラ公爵の連れてきた男が、第三王子だと聞いた。父上は自ら口にした言葉を忘れたのか? 呆けるのが早すぎるぞ。嫌みを交えて「アレ」と呼称した。サンバドル王国の第三王子と聞いたが、個人名は聞いていない。
私の言い方にぴんと来たのか、セシリオが溜め息を吐いた。
「ロエラ公爵か……なるほど。事情を説明しておこう」
婚約者のフリ、囮を引き受けたため教えてもらえたのだろう。そう判断するほど、王家の内側の事情だった。つまり、外部に知られると「恥」になる部分だ。
「先ほど説明した通り、正妃である母上と側妃が二人いる。妃は間違いなく公式にも三人だ。ただし……父上は女性に対して、その、まあ奔放で」
奔放な下半身が、外へ愛人を作った……と? 王族、それも王位継承権を持つ息子を作れる国王が? 後継者も出来たのだから、いっそ断種してしまえばよいものを。
他家の前で言いづらいのは理解した。きっちり引導を渡してやろう。
「なるほど。女癖が悪く種を蒔き散らす阿呆か」
「……アリス、不敬になるぞ」
気を付けろと遠回しに忠告する父上に、シルベストレが反論した。
「なぜです? お姉様は聞いた話を纏めて表現しただけ。誰が、と言っておりません」
こういった言葉遊びは、私とシルベストレの間でよく行ってきた。後継者教育の一環で、揚げ足を取られないよう言い回しを増やす。万が一のときに逃げられるよう、言葉に余裕を残すのだ。きちんと学んだ証拠とばかり、父上へ返した。
「ふむ、よく学んでおる」
満足げな父上の頷きに、母上も微笑んだ。というか、和んでいるのはこちら側だけだな。ビビアンという公爵令嬢の兄君は、顔を引き攣らせた。
「フリアン、このくらいでなければ負けるぞ」
くすくす笑うセシリオにより、ようやく公爵令息が紹介された。名はフリアンか。ロエラ公爵家ではあるまいと先を促せば、クルス公爵家だと名乗りをもらった。
「クルス公爵家嫡男、フリアンと申します。ご挨拶が遅れました。セシリオ殿下の側近を務めております」
挨拶は遅れたが謝らない。貴族のやり取りは本当に面倒臭い。アルダ王家に取り込まれなくてよかったと、改めて心の底から実感した。
「公式に第三王子は存在しない、そう捉えて構わないか?」
「もちろんだ。我が王家の王子は、俺と亡くなった弟だけだ」
駆け引きもなく言い切られた。こうなると、ロエラ公爵の立ち位置は微妙だな。もしかして血の繋がりがあるのか?
「ロエラ公爵と第三王子の関係が知りたい」
「預け先と預けられた孤児だ」
国王が産ませた婚外子は母親を亡くしたが、妃達の手前、王家で引き取れなかった。そのため親族である公爵家に預けたのか。王族らしい振る舞いが身についていないのは、身の丈に合わない地位を望まぬように敢えて教育しなかった。
おそらく王位継承権も与えられなかった。見えてくると哀れに思えてくるが、同情するほど私は優しくない。やれやれ、国王の閨事情など知りたくもなかったのに。
「お姉様、潰し甲斐がありますね」
可愛い少女姿で微笑む弟に、この子が楽しいならいいかと思い直した。




