28.文句は王太子殿下へどうぞ
門限ギリギリになった帰宅のついでに、父上に文句を言う。こういうのは先手必勝だ。一歩出遅れたら、こちらが叱責されるからな。渋滞や不法者捕獲もあるが、それを理由にしたら藪蛇になる可能性がある。たとえ襲撃されても、遅刻は遅刻なのだ。
「セシリオは王太子殿下だと、黙っていたのはなぜです? 明日来ますよ」
「……言ってなかったか?」
にやりと笑っていたら殴るつもりだったが、本当に驚いている。きょとんとした顔に拳を見舞うのは諦め、大きく息を吐いた。
「何も聞いていません。埋め合わせをしてもらいます」
仕方ないと呟く父の横をすり抜ける。さりげなくシルベストレに自室へ戻るよう誘導した私は、ぽんと肩を叩かれた。
「それはそれとして……遅刻だぞ」
「王太子殿下のせいなので、文句は明日、彼にお願いします」
ぺちっと手を払いのける。それ以上文句を言われないか確認し、自室で着替えた。紺色のお揃いは気に入ったので、また近いうちに着よう。庭でのお茶会がいいな。母上も誘えば、父上も喜ぶだろう。
夕食、その後の団欒、風呂……結局、眠るまでそれ以上の追求はなかった。好きではないが、役に立つ男だな……セシリオ。明日は少し優しくしてやってもいい。あ、バシリオは明日帰って来るだろうか……ん? 妙な部分が気になった。
セシリオ、バシリオ……似ているな。まるで親子か兄弟のようだ。隣国の王太子と、親子ほどの年齢差がある執事……あり得ないか。お気に入りのぬいぐるみを引き寄せ、思い付きを笑い飛ばす。そのまま、無用な考えを捨ててぐっすりと休んだ。
余計なことで悩み、寝不足で後れを取るのは馬鹿の所業だ。そう豪語する一族に育った私が、寝られないほど繊細なはずがない。目覚めはすっきりしていた。
「その服で会うのか?」
シルベストレと一緒に食卓につくと、父上が静かに問いかける。
「何か問題が?」
「可愛いでしょ?」
いつも通りのはずだが。不思議に思って尋ねた私に、母上が説明してくれた。サンバドル王国の王太子殿下に会うのに、私が男装、弟が女装は拙いのではないか……と。
「今さら何を言うかと思えば……セシリオは私とベスを知っているから平気です」
きっぱりと言い切った。実際、昨日までに服装が逆だと指摘されたことはない。男は不要だと返したら、友情と言っていたぞ? 昨日の彼の反応を口にしながら、私は卵料理に舌鼓を打つ。これは美味い。絶賛して、また作ってもらおう。
隣のシルベストレも、嬉しそうに頬を緩める。
「お姉様、これ、美味しいね」
「そうだな。ベスも気に入ってよかった」
うちの弟は今日も可愛くて、幸せを感じながら微笑む。婚約が解消されて領地に戻れたことに、心の底から感謝した。




