21.お揃い衣装で渋滞に嵌まる
久しぶりに馬車に揺られたが、これも悪くないな。出がけに牧場を走るモニカに声をかけた。出かけるが馬車で行くと伝えたら、ふんと鼻息を吹きかける。不満そうだが、わかってくれたらしい。肩や髪を噛まれると、かなり機嫌が悪い証拠だ。
馬車の中では疲れたら寝ることも可能で、ルカが落ちる心配もなかった。可愛く着飾ったシルベストレの姿も、正面で向かい合って堪能できる。ベスの姿で馬に跨ったら台無しだからな。足を揃えて座るベスは愛らしい。
「姉上……いえ、お姉様とお揃いが嬉しいです」
ベスの時は少女らしい言葉遣いや仕草を心掛ける弟に「私もだ」と同意を返す。シルベストレに以前「女性になりたいのか?」と尋ねたことがあった。振る舞いに気を付けているから、女装以外の部分でも気を遣ったほうがいいのかと。いわゆる、女性扱いが必要かどうかだ。
その際の返事が「僕のこの可愛い姿に相応しい言葉や振る舞いをしたいだけです」だった。足を広げて座ったり、低い声で乱暴に話したりすれば、可愛い姿が台無しになる。好きな服を着て、似合う髪型や化粧を施し「可愛いね」と褒められたいだけと説明を受けた。
恋愛対象は異性である女性だし、この趣味を理解してくれたら嬉しいと。それを聞いたときは、可愛いベスの隣で手を繋ぐ、可愛いお嫁さんを想像した。うん、悪くない。可愛いが増殖するなら、私としては拒む理由がなかった。
「今日はリボンにしたのか」
「はい。お姉様が買ってくれたリボンを使いたかったので」
なんと可愛い奴だろう。引き寄せてぐりぐりと頭を撫でたいが、せっかく整えた髪型が崩れてしまう。仕方ないので、馬車の床に膝をついて手の甲へ頬を寄せた。見上げながら褒め言葉を並べる。今日はシックに紺色だった。
まだ寒い時期なので、ベルベット系の生地が多い。艶のある紺色のリボンは金刺繍が施され、服のあちこちに飾られていた。同じリボンをツインテールの髪に巻いているが……絡めるために長く結んだ。くるくると髪に絡むリボンが、銀灰の髪に映える。
「瞳の色に近いからか、紺が似合うな」
「お姉様も凛々しくて素敵です。騎士服というより、軍服に近いですね」
金のモールを多用した衣装は、軍人のように見える。きちっと首元まで覆い、白い手袋も着用した。可愛いご令嬢ベスを守るつもりだ。
紺の衣装に白いルカの毛皮も映えるはずだ。互いを褒めてから、座り直した席で窓の外を眺めた。もうすぐ王都に到着するが……なぜだろう。衛兵のいる門に行列が出来ていた。王都が閉鎖される話は聞いていないし、何か事件でもあったのか? 首を傾げた私だけでなく、同じ光景を見たベスも目を瞬く。
「なんでしょうね」
「なんだろう」
同行したルカも、きゃう? と続いたので顔を見合わせて笑う。まあ、私達には関係ないはずだ。バシリオの土産の相談を始めるが、馬車は列の最後尾で止まった。




