20.可愛いベスとルカを連れて明日は街へ
手紙が届いた。バシリオからだが、屋敷の売却の目途がついたらしい。となれば、彼が戻って来る!
「ベス! バシリオが戻って来るぞ」
「本当に? やった!」
目の前でお茶のカップを傾けていた弟は、大喜びで笑顔を振りまいた。可愛すぎる。今日のシルベストレは、愛らしいドレス姿だ。といっても夜会などで着用するドレスではない。お茶会用のふんわりしたドレスを短くした、お人形風のワンピースだった。
深い赤の生地はベルベット、白と黒のレースが裾や袖を飾る。共布のヘッドドレスも似合っていた。私は母上と同じ金髪に、父上の緑の瞳を受け継いでいる。シルベストレはそっくり逆で、父上譲りの灰銀の髪に母上そっくりな青い瞳だった。
灰銀の髪は珍しく、滅多に見かけない。一族でも希少な色のため、遠目でもシルベストレが区別できるのは嬉しかった。淡い髪色の場合、服は深い色が似合う。黒、紺、深緑、臙脂もいいな。着せてみたい色やドレスがたくさんある。
「今日のワンピースなら、髪は流したほうが似合う」
「うん、それでヘッドドレスにして貰ったんだ」
笑顔で告げるシルベストレを可愛く仕上げたのは、侍女ララウだった。彼女は慣れた様子で薄化粧を施し、可愛いベスを作り上げてくれる。私の専属侍女だが、ある意味私のための仕事でもあった。可愛い弟の姿は目の保養になる。
「こんなに可愛い姿なら、エスコートして出かけようか」
「だったら、バシリオへのお土産を買おうよ」
街へ出ようと訴えるシルベストレに、私は少し考えた。足元で昼寝をしているルカは、出かけると告げたら拗ねるだろうか。先日はサンバドルの王都へ向かう際、置いていった。きちんと言い聞かせて抱いていけば、平気か?
「ルカも連れていけるだろうか」
「馬車にするのはどう?」
「時間がかかるが……可愛いベスも一緒だからね。それも悪くない」
予定を組み、翌朝の出発とした。父上にも伝え、許可を得る。サンバドル王国との折衝は丸投げしているが、今のところは順調らしい。
先日、ロエラ公爵が連れてきた第三王子は、やはり見合いの意味合いが強かったようだ。もちろん、ロエラ公爵の口から王へ「無理」と伝えたと聞く。今度顔を合わせたら、ロエラ公爵に礼を伝えよう。あのバカ息子と結婚するくらいなら、一族で独立したほうがマシだからな。
父上だけでなく母上も同意していたから、そういうことだろう。血縁関係を結ぶのが、同盟の第一歩だが……あの王子では一族の未婚女性全員が断ると思う。我が一族に加わるだけの才も価値もないからな。
足元で眠るルカを抱き上げ、まだ短い角を撫でる。そこから額を通って頭の後ろまで手を動かせば、ちらりと緑の瞳が見えた。すぐにまた閉じてしまう。
「ルカ、明日は一緒に街へ行くか?」
きゃつ!! 寝たふりをやめたルカが尻尾を振り、全身で喜びを伝えてくる。バシリオの土産、何を選ぶべきか。食べ物や身に着ける小物がいいだろう。人への贈り物を選ぶのは、いつも楽しい。
明日の服装をお揃いにしようと提案され、シルベストレとクローゼットへ向かった。何色を選んでも似合う可愛い弟の足元で、ルカがくるくると走り回る。可愛いに可愛いが戯れるこの光景を、保存出来たらよいのだが。




