18.俺のせいじゃない ***イラリオ
美しい妻が欲しい。それは悪い願いなのか? いくら綺麗な顔をしていようと、凛々しく勇ましい妻など要らない。俺より王子らしい振る舞いをするんだぞ? 俺が惚れた可愛い女性も、美しい令嬢も、あのウルティアの男女を褒める。
俺は本物の王子で、顔だって整っているのに! なぜ俺に惚れないんだ?! 不満は一度零れたら、もう止まらなかった。
夜会にドレスではなく騎士服を着てくるような女は要らない。そう宣言したのは、あの男女が反省して縋ると思ったからだ。ところがあっさり了承したうえ、貴族の二割以上を連れて出ていく。頭に上った血が下がったのは……しばらく経ってからだった。
遅れて参加した父上や母上に叱られ、兄上に呆れられた。
「お前は……っ、ウルティア一族が背を向ければ、誰が国境を守るのか! 政略結婚の何たるかも理解しておらんのか? 誰がこんな馬鹿を育てた!」
「申し訳ございません、陛下。きちんとした教師を付けたのですが……」
全員首にしてやったぞ。辺境で戦う連中のほうが、王族より凄いとか抜かす奴ばかりだった。野蛮な連中を褒め称える教師なんぞ不要だ。ふんぞり返る俺に、母上が涙を零す。
厳しい顔の父上が宣言した。
「イラリオの王位継承権をはく奪、処分は後日発表とする」
「え? なぜ……」
俺は間違っていないのに、なぜだ。王位継承権がなくなっても、王族でいられるのか? 不安がよぎった。近づく兄がぽんと肩を叩く。
「王族でいられると思うな」
反論しようと顔を上げ、苦虫を噛み潰したような兄の表情に絶句する。それほど、まずい状況なのか? たかだか、田舎の辺境伯家との婚約を破棄したことが……。
騎士に連行される形で、夜会の広間から移動する。自室ではなく、貴族用の牢へ入れられた。二割の貴族が離反しても、八割が残っている。そう考えて楽観視していた俺は、その後の展開を想像できなかった。
ウルティア辺境伯家と双璧を成すモンタネール辺境伯家も離脱を表明する。他国と国境を接する二つの辺境伯が消えれば、残るのは中央貴族のみ。ウルティア一族は二割だが、モンタネール家も二割近い貴族を傘下に収めていた。
国から四割の貴族が離脱し、残った六割は文官である子爵家以下がほとんど。侯爵家も武力をほぼ持たず、近衛騎士も見栄えばかりの張りぼてだった。実戦経験のある者がいない。辺境までの街道を守る貴族は、辺境伯家の一族だった。
他国からの輸入が停止する。危機感から買い占めが起きて、王都は大混乱に陥った。逃げようにも、四方向が二つの辺境伯家の領地だ。
そんな話知らない。どうして誰も教えてくれなかったんだ。そう泣き叫んだ俺を、母上は涙に濡れた目で睨んだ。
「お前が首にした教師たちは、それを教えようとしていたのよ」
「愚かな弟のせいで、治める国がなくなるかもしれない。王族籍どころか、命を捧げて詫びる覚悟はあるんだろうな」
兄上にも詰め寄られ、俺はぐしゃりと髪を掻き乱した。なぜだ? 綺麗な妻が欲しかっただけなのに……。




