17.趣味も嗜好も自由な一族
着飾ったシルベストレはご機嫌だった。一族の者はベスの正体を知っている。それが総領息子であるシルベストレのもう一つの姿だった。多種多様な民族を取り込んだウルティア一族は、差別意識が皆無に近い。趣味や嗜好に変わった癖があっても、深く追求しなかった。
重要なのは、一族に迷惑をかけるかどうか。この一点のみだ。私が男装しても、弟が女装しても、一族の日常は変わらない。他の親族も多かれ少なかれ変わり者揃いだった。馬を溺愛して妻を娶らない者、同性の恋人を作って暮らす者、筋肉に傾倒してムキムキになった女性など。
それぞれに己の趣味を極めていた。女装や男装程度、取り立てて騒ぐ趣味ではない。シルベストレは女性になりたいのではなく、可愛い自分の姿に似合う恰好をしたいだけ。それが女装という形だったのは、穏やかな解決方法だろう。
「ベスの唇はピンクが似合う」
「そう?」
嬉しそうに鏡を覗く弟は、どこからどう見ても愛らしい美少女だった。レースやフリルの可愛いドレスが似合うし、髪を巻いたり化粧をしたりと楽しんでいる。私のように実用一辺倒で、男装するのとは意味が違った。
「明日は何を着ようかな」
シルベストレの言葉に、そうかと目を瞬いた。領地に戻ったから、弟はベスとして可愛い姿をしている。つまり、私も窮屈な枠に収まる必要はない。貴族令嬢として振る舞わなくていいなら、鍛錬をしようか。愛馬モニカと遠乗りもいいな。
久しぶりに読書を楽しむのも悪くない。浮かぶ考えに楽しくなった。
「ベスは明日、何をする?」
「うーん。読書かな」
私が選んで仕立てたドレスを広げながら、シルベストレは可愛く笑った。王都では噂になるため、女装を我慢するしかないシルベストレのドレスは、すべて領地に置いてある。引き上げる際も、ドレスは私や母上の分ぐらいだ。
「姉上の予定は?」
シルベストレの髪にリボンを絡めながら、私は頭に浮かんだ予定を口にした。
「久しぶりに釣りでもしようかと」
「だったら、一緒にピクニックしようよ。僕は本を持っていくから、姉上は釣りをすればいい。どう?」
二人で出かけようと提案するシルベストレへ、了承を伝えた。何人かついてきそうだが、一日をゆっくり過ごせそうだ。ララウにも同行するよう話し、持っていく軽食も手配してもらった。
「バシリオは王都を出た頃か?」
「……え? 余計なのに絡まれてそうだけど」
屋敷を売り払い、不要な財産を処分するよう命じられた執事を思い浮かべる。有能な彼のこと、特に心配はしていなかったが……シルベストレの呟きに不安がよぎった。アルダ王国の貴族や騎士にどうこうされる程度の男ではないはず。
「バシリオは強いから、大丈夫だと思うよ」
からりと笑って言い切った弟に、そうだなと同意しながら窓の外へ目を向けた。師匠でもあるバシリオが無事であるよう願いながら。




