16.無礼なバカ息子の扱い
ピンクのリボンをシルベストレに使ったので、オレンジのリボンに緑のブローチを通す。床に座ってルカの首に当てれば、やはりブローチが大きすぎた。
「重いかな?」
「足も太いし、大きくなる子だから平気では?」
化粧を終えたシルベストレの声に頷いた。
ルカの白い毛皮にオレンジのリボンが映える。鮮やかな色なら、何でも似合いそうだ。犬用のドレスを作れないか、仕立て屋に聞いてみよう。そんな考えを感じ取ったのか、ルカが逃げようとする。床に押さえつけて、手早くリボンを結んだ。
ぱっと手を離せば、元気よく走っていき……立ち止まった。後ろ足で掻く仕草を見せ、ブローチやリボンの違和感を訴える。
「可愛いぞ、ルカ」
きゃん! 褒めたら大喜びで走り回った。人の言葉を理解しているのだろうか。愛馬のモニカもある程度理解しているようだし、頻繁に話しかけて覚えてもらおう。
振り返った先で、可愛いご令嬢が一人。鏡台の椅子に腰かけ、髪を結った美少女が手を差し出す。膝をついて受け、手の甲へ唇を寄せた。
「愛らしいご令嬢に求婚したくなる」
「それはまずいが……先ほどはすまなかったな。かち合うとは思わなかった」
ノックもなしに扉を開いた父上が口を挟む。王子様と姫君として戯れるくらい、許してほしいものだ。それにノックがなかったと文句を並べた。
「先ほどの無礼者は、どちらのバカ息子ですか」
丁重に「バカ息子」と称した阿呆の正体を尋ねる。今後も顔を合わせる可能性があるなら、しっかり確認しておくべきだろう。善意には善意を、悪意には悪意を返すのが一族の流儀だ。睨むように父上へ詰め寄った。
「サンバドル王国の第三王子だ」
「なるほど……」
父上の表現で「バカ息子」の立ち位置がわかる。つまり、名を告げる必要も覚える理由もない。その程度の存在だと示した。ウルティア一族の総領である本家の跡取りに対し、あのような対応しかできない。
第三王子だからではなく、王家に必要ない三番目の息子に過ぎないのだ。父上がそう判断するだけでなく、あのロエラ公爵も同様に考えているはずだ。王族を紹介せず、自分だけ名乗った。判断した内容を父上へ告げれば、やれやれと首を横に振った。
「どちらも優秀だが、総領はやはりシルだな。アリスは裏を読みすぎる」
「同感です」
跡取りに名乗り出る気はない。優秀なシルベストレが跡を継ぐことも納得していた。私は剣であり、盾になればいい。せっかく政略結婚から逃れたのだから、今後は可愛いものを愛でて生きていく。そう宣言したら、父上はぼやいた。
「これは……ティナに泣かれるな」
ティナは母上の愛称だ。アグスティナ・イルダ・ウルティア一族の直系令嬢だった。婿に入った父上は母上に弱い。私が結婚しないと母上が泣く? 慰めるのは父上の役目だから、私は関係ないな。




