15.兄妹でも姉弟でも失礼だぞ
屋敷の手前で勝負がひっくり返った。アマンドを追うグラシアナが邪魔をしたことで、カンデラが三番手でゴールした。私とシルベストレが上位なので、競争は事実上カンデラの勝ちだ。
「クソッ、卑怯だぞ」
「負け犬の遠吠えね」
ふふんと笑ったグラシアナは得意そうだが、彼女がビリである。馬達を牧場へ戻す作業は、ビリのグラシアナに任された。と同時に、笑顔のカンデラが手伝いを申し出る。そうなれば、結局アマンドも手伝うことになるのだ。なんだかんだ仲がいい。
「頼んだぞ」
「またね」
手を振って別れ、屋敷の中へ入った。玄関ホールで、帰る客人とすれ違う。初老の男性を筆頭に、男ばかり五人の集団だった。身なりから、二人の貴族と使用人だろうと判断する。軽い会釈で通り過ぎようとした私は、後ろのシルベストレの声に驚いた。
「え? 何……」
私の後ろを歩いていたシルベストレは、困惑の声を上げた。というのも、間に入り込んだ男が一人……じろじろと上から下まで眺める。さすがに失礼だろうと振り返った私の耳に、思わぬ言葉が飛び込んだ。
「なるほど、美しいご令嬢だ。婚約が破棄されたと聞いたが……もったいないことですな」
「……はぁ?」
ベスである妹の口から、明らかに弟シルの低い声が出た。それも嫌悪感を膨らませて、相手を全否定する顔で……。
「失礼、婚約を解消したのは私だが」
驚いた顔で固まった男の肩を叩き、シルベストレを庇う位置に立った。今は妹のベスであり、私の可愛いお気に入りなのだ。じろじろ見られたら、可愛さが減るではないか!
「おとこ? いや……え?」
混乱する若い貴族の肩を、初老の男性がぽんと叩いた。それから丁寧に私達に詫びる。
「連れが失礼した。ウルティア一族の長子ベアトリス嬢と、後継シルベストレ殿にご挨拶申し上げる。サンバドル王国公爵ブルーノ・ロエラじゃ」
初老の紳士は礼儀正しく挨拶をしたため、私は穏やかに応じた。返礼しながらシルベストレを背中に庇う。まだじろじろ見ているのが不快だった。
「おや、帰ったのか。構わん、部屋に行きなさい」
父上の言葉に従い、さっさと玄関ホールを後にした。二階がない造りのため、左側にある私室があるほうへ向かう。姿が見えない場所まで移動し、振り返ると……シルベストレの唇が尖っていた。
「そんな顔をしても、可愛いだけだぞ」
「……あいつ、もし姉上がドレスだったら同じことをしたかもしれない」
淑女の前に立ちはだかり、婚約が破棄されたと侮辱する。見下した態度が気に入らないと鼻に皺を寄せた。大人しそうな見た目に反し、私より血の気が多いかもしれんな。苦笑いしながら、シルベストレの手を引いて部屋に入った。
「姉上?」
「せっかくだ、化粧と髪結いもしないか?」
誘いを向ければ、シルベストレの気分が上昇する。侍女ララウが道具を揃える間に、かなり上機嫌になった。やはり笑っているほうが可愛いな。微笑む私はすっかり忘れていた。この部屋にはルカがいたのだ。
きゃう!! 勢いよく足に飛びつかれ、猫のようによじ登ろうと試みる。抱っこされたいようだが、自力で登るのはさすがに無理だろう。
「すまない、忘れたわけじゃないんだが」
言い訳をしながら抱き上げる。顎のあたりをぺろぺろ舐めるルカを宥めながら、鏡越しに仕上がっていく可愛いベスを見守った。




