12.少女を三人も侍らせるクズに見える
足運びはさっきの男よりマシだな。小さな動きから相手の力量を読むのは、戦ううえで必須の能力だ。にこっと笑い、小首を傾げた。
「なんだろうか」
「……っ、女?」
馬鹿にするつもりはないので、素直に頷いた。男は腕を組んだ私達三人にぺこりと頭を下げる。
「すまん、衛兵の見回り時間を変更したため……駆けつけるのが遅れた。迷惑をかけたことを詫びる」
「私達なら問題ないが、他の可愛いご令嬢が被害に遭わないよう善処してくれ」
真っすぐに謝罪されれば、こちらも素直に応じるだけだ。頷いて注意事項だけ口にした。よく見れば、チューリップに似た襟章が男の服に飾られている。どうやらサンバドル王国の王都警備隊のようだ。会釈して離れる私に、再び声がかかった。
「あなた方の所属を教えてくれないか?」
聞かれる前に立ち去ろうとしたのに、言われてしまえば……さて、どうしたものか。父上達はこのサンバドル王国へ身を寄せる気でいた。当然だが、土地が繋がっているからだ。これから交渉する段階だろうが、勝手に名乗っていいのか?
交渉の妨げになる可能性もある。口を噤んだほうが……。
「あ、姉上! 見つけました!!」
手を振って走って来る弟シルベストレが、満面の笑みで私の前に立つ。ひらりと裾が翻った。
「ベス様、その姿……可愛い」
「本当! すごく綺麗!!」
わざとらしいくらいはしゃいで、グラシアナとカンデラの二人が声を上げる。家族の贔屓目を引いても、シルベストレは可愛い。今は輪をかけて愛らしかった。優秀な弟には人と違う趣味があり……可愛く装うことに力を入れている。
後ろに細く長く伸ばした髪を揺らし、シルベストレがくるりと回った。風をはらんだスカートが膨らんだ少女は私に抱き着いた。手がふさがっていたので、三人の少女を侍らせる優男に見えるだろう。
「おい、荷物持たせるなよ」
文句を並べるアマンドが追い付いた。ぽかんとした顔の王都警備隊の男に、軽く会釈して歩き出す。カンデラが場を譲り、私の左腕にしがみついたシル……いや、女装姿の時はベスだったな。呼び名まで変えて成りきる弟に微笑みかけた。
早く離れるぞ! 口だけで告げ、足早に近くの角を曲がった。そこまではゆっくり歩き、姿が見えなくなった途端に全力で走る。その先でまた曲がり、何度か左右に道を移動して息を吐いた。これだけ走っても、誰も息が切れていない。
「姉上、今日の僕は可愛いですか?」
「すごく可愛い。褒めるのが遅くなってすまない。だが、リボンはこちらのほうが似合うぞ」
買ったばかりの商品が入った紙袋から、ピンクのリボンを取り出した。赤いリボンを解いて結び直す。嬉しそうなシルベストレに、アマンドが複雑そうに呟いた。
「街まで来て、女装しなくてもよくね?」
「アマンド、それは違うぞ。街に来たからこそ着飾りたいのだろう。君は聡いからわかるはずだ」
「……はい!」
敬礼する勢いで背筋を伸ばすアマンドに、グラシアナやカンデラが荷物を押し付ける。お陰で優男が三人の少女を独占し、後ろに荷物持ちをさせられる少年一人……というクズな光景が出来上がった。
何はともあれ、予定が狂ったが食事をしよう。屋敷に帰るまで、この空腹を抱えている気はないからな。




