11.無礼には武力で応じる
「おいっ!」
こちらの反応が思わしくないからか。男の一人が手を伸ばした。カンデラに触れようとしたため、左手を繋ぐ彼女をくるりと回転させて手元に抱き込む。ダンスのターンの要領だ。子爵令嬢のカンデラは、さらりとこなした。
こういう時は考えるより早く、身についた所作がでる。繋いだ手を持ち上げて回るよう促せば、カンデラが意識する前に体が対応した。ちなみに、彼女も弓を扱わせれば凄腕だ。木の枝に飛び乗って狙うことも多いので、身軽だった。
「っ! なんだ、いまの」
騒ぐ男達を見ながら、腕前を推し量る。腕力に頼った夜盗より下か。武器を抜くまでもないと考え、一歩後ろに引いた。腕を組むグラシアナも同時に動く。抱き込んだカンデラは胸元に頬を寄せ、目を閉じていた。こんな場面で暢気だが……我が一族の女性なら当然だろう。
気配を読むより、彼らの騒がしい物音で距離や位置が伝わるのだから。
「クソッ! やっちまえ」
二人が同時に飛び掛かった瞬間、私より早くグラシアナが動く。右足を踏み出しながら、スカートを軽く捲った。内側に隠した短剣を掴むなり、目の前の男の首に突き付ける。もう一人は私が仕留めた。手刀で首筋をぽんと叩くだけで、がくりと崩れ落ちる。
「やだ、そっちのがカッコいい」
「褒められると照れるな。グラシアナも素敵だよ」
「うふふ、頑張っちゃった」
話しながら、グラシアナが短剣の柄で男のこめかみを叩く。音もなく膝から崩れて倒れる男を見ながら、困ったなと思う。まだ買い物があるのに、道端に放置していいだろうか。
「誰か、衛兵を呼んでくれないか?」
街の住人に声を掛ける。こういった通報は、我々より住人のほうが確実だ。近くで果物を売る妙齢の女性が、がらがらの声を張り上げた。
「あたしが見ててやるさ。置いてっていいよ。こいつら、あたしの店から品物をくすねたからね。しっかり罰を受けさせないと」
強い口調で言い切った彼女に任せることにした。ついでではないが、お礼代わりに果物を数点購入する。林檎はモニカの好物だからな。笑顔で見送る店主が「こっちだよ」と衛兵に手を振った。駆けつけるのが早いのは、絡まれた時点で誰かが通報してくれたのかもしれないな。
通りを一つずらした先で、髪飾りやアクセサリーを売る店に入った。宝飾品と呼ぶほど高価ではないアクセサリーは、普段使いにちょうどいい。壁にびっしりと並ぶリボンは、綺麗なグラデーションを作っていた。わずかな色の違いを確認しながら、青と緑を選ぶ。
「これも似合いそうよ」
「あの白い獣なら、これはどう?」
煙ったように不透明な緑の石をカンデラが指さす。くすんだ金枠にはリボンを通せる穴もあった。元はブローチだろうか。ルカには石が大き過ぎる気もするが、すぐに成長して丁度良くなるはずだ。
「そうだな、これを買おう。リボンは色を替えるか」
「黄色か……ピンクは?」
「私ならオレンジかな」
グラシアナとカンデラが意見を出し合う。どれも似合うなと頷いて、オレンジとピンクを購入した。オレンジの艶消しリボンは金刺繍が入っており、ピンクは同色のレースが縁を飾っていた。満足いく買い物ができたところで、カンデラの髪飾りを選ぶ。
「私はこれにするわ」
カンデラは黒髪に映える銀細工の飾りを選んだ。石はないが、貝の虹色が埋め込まれている。当てて鏡で確認する彼女に「似合うぞ」と言葉を添えた。
買い物も終わったし、そろそろ食堂へ向おう。グラシアナとカンデラを促し、腕を組んで店を出た。
「おい! 待て」
振り返ると見知らぬ男が立っている。雰囲気はさっきの無礼な男達に似ていた。




