45 嗚呼それでも、終わってくれることと信じてたんだ。信じたくもないことが起こるまで――
三年生は全員、体育館へ移動した。
「そういうヤツなんよ! こんな奴なんよ!!」
相変わらずナルが、時田のことをクラスメイトに向けて吠えていた。
(元気なこってぇ。俺は立っているコトすらしんどいのに……)
「――精一杯……」
校長が壇上で演説を始めた。
「――ここまでご家族の愛情を受けて……」
校長の話をなまじ聞いていた時田は、何故か不意に家族の顔が脳裏を過った。
(じいちゃん……!!)
時田の両の目が、瞬時に生温かいもので満たされた――
「あぁぁあああああああ!!」
「!!」
「!?」
時田は大声で泣き始めてしまった。
そしてなぜか歩き出した。歩みは体育館の外へと進んだ。
丁度体育館を出たくらいの所で、先生に呼び止められた。
「どうした? どこか痛いのか!?」
「ああぁぁああ! うっうぅう」
時田は泣き続けた。そのまま先生に連れられて、保健室へ辿り着いた。
「あぁぁああぁぁあああ!!」
時田の心中は次第に怒りに満ちていった。
(ナルめ!! お前さえ居なければ! お前さえ居なければ!!)
「あぁぁああぁぁあああ!! ……ハッハッ……ハッハッハッハッハ」
保健室のベッドで横たわり、泣いていた時田は次第に過呼吸を起こしていく。
「ハッハッハッハッハ」
「大丈夫!? 呼吸をゆっくりして!」
保健室の教員は時田の背中をさすってやった。
数十分ほど、時田が泣いたり、過呼吸になったりしただろうか――。
「おい、大丈夫か?」
「!!」
シゲミが現れた。先生が連絡を入れてくれたのだろう。
「どうもすいません」
シゲミはいつもの様子で、先生達に頭を下げている。
「ハッハッハ……ハー……ハー……」
安心した所為か、呼吸が落ち着いて来た。
――。
体調が戻ってきたところで時田はシゲミと学校を後にした。
「明日の卒業式は、どうする?」
「…………」
時田はシゲミの問いに、答えられなかった。大勢の前で泣いたので、恥ずかしさはあった。同時に心配だった。卒業生の保護者が、思考盗聴器関連の物を使い、パニックにならないか、暴動にならないか――。傍から見れば大袈裟で、心配し過ぎだったが、当の本人は大マジでそう思っていた。
「明日の卒業式は行かない様にしようや」
「!!」
シゲミは世間体を気にしたのだろう、行くな、と言ってきた。父親の言うがままに、大体生きて来た時田は、首を縦に振った。
「うん、行かない……」
――、
「誰かに何かされたんだろう? 言ってみろ」
3日も経たぬうちに、シゲミは時田に問いただしてきた。
「……」
「なにも無かったんか?」
「……イタズラ電話とか、迷惑メールを送られた」
腹の底からやっと出た言葉がそれだった。
(思考盗聴器とは言えない……)
「分かった。それなら向こうの親に訴える」
時田はその時心の底から安堵した。
これで思考盗聴器の被害から逃れられる。
イタズラ電話や迷惑メールで、伝わるだろう。
父はナルの家にすぐさま電話をかけた。
「……」
電話が終わる。
「××さんとこに電話したけど、イタズラ電話や迷惑メールなんてしてないと言ってきたぞ」
(! ! ! !)
血の気が引いた。まさか、自分の非を認めないとは……! 自動車教習所で過呼吸になった。高校の卒業式にも出られなかった……。思考盗聴器の所為で――。それなのにヤツは……ナルは謝りもしないのか……。
「証拠は無いんか?」
「うっ……全部、イライラして消した」
必死に嘘をついた。
「向こうのお父さん、怒っとったぞ。言い掛かりだ、と。こりゃあ、謝りに行かんといけんかもな」
「! ! ! !」
(逆に……謝る……?)
時田はストレスでどうにかなりそうだった。
「今から謝りに行くぞ。でも何かされたんじゃな? それも伝えよう」
「……分かった」
ナルは鬼だ。とりあえず人の血は通っていない。身勝手で残酷な悪魔だ。今から時田は、そのナルの家に謝りに行く事となった。
――ナルの家に着いた。時田とシゲミは車の中に居て、ナルのお父さんはその車で話をするようになった。しばらくして、ナルの父が家から出てきた。ナルのお父さんが車に入って来る。
「言い掛かりをつけてしまい、すいませんでした」
時田は泣きそうになりながら謝った。その様子を見て、何か感じたのだろう、ナルのお父さんは時田に対して、何も言わなかった。
「イタズラ電話や迷惑メールは無かったかもしれんが、何かされたのは事実なんです」
シゲミはフォローを入れてくれた。
「……分かりました」
ナルの父は引き下がってくれた。
時田は胸をなでおろした。
(怒られなくて良かった)
『被害者が謝る』
あまりにも奇妙な形で、この出来事は幕を閉じる。




