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最凶の人生~思考盗聴器と共に生き、本当に一度死んだ男~  作者: 時田総司(いぶさん)
6章 束の間の高校編

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45 嗚呼それでも、終わってくれることと信じてたんだ。信じたくもないことが起こるまで――

 三年生は全員、体育館へ移動した。


「そういうヤツなんよ! こんな奴なんよ!!」


 相変わらずナルが、時田のことをクラスメイトに向けて吠えていた。


(元気なこってぇ。俺は立っているコトすらしんどいのに……)


「――精一杯……」


 校長が壇上で演説を始めた。


「――ここまでご家族の愛情を受けて……」


 校長の話をなまじ聞いていた時田は、何故か不意に家族の顔が脳裏を過った。




(じいちゃん……!!)




 時田の両の目が、瞬時に生温かいもので満たされた――



「あぁぁあああああああ!!」



「!!」

「!?」


 時田は大声で泣き始めてしまった。

 そしてなぜか歩き出した。歩みは体育館の外へと進んだ。

 丁度体育館を出たくらいの所で、先生に呼び止められた。


「どうした? どこか痛いのか!?」

「ああぁぁああ! うっうぅう」


 時田は泣き続けた。そのまま先生に連れられて、保健室へ辿り着いた。


「あぁぁああぁぁあああ!!」


 時田の心中は次第に怒りに満ちていった。


(ナルめ!! お前さえ居なければ! お前さえ居なければ!!)


「あぁぁああぁぁあああ!! ……ハッハッ……ハッハッハッハッハ」


 保健室のベッドで横たわり、泣いていた時田は次第に過呼吸を起こしていく。


「ハッハッハッハッハ」


「大丈夫!? 呼吸をゆっくりして!」


 保健室の教員は時田の背中をさすってやった。



 数十分ほど、時田が泣いたり、過呼吸になったりしただろうか――。


「おい、大丈夫か?」


「!!」


シゲミが現れた。先生が連絡を入れてくれたのだろう。


「どうもすいません」


 シゲミはいつもの様子で、先生達に頭を下げている。


「ハッハッハ……ハー……ハー……」


 安心した所為か、呼吸が落ち着いて来た。

 ――。


 体調が戻ってきたところで時田はシゲミと学校を後にした。


「明日の卒業式は、どうする?」

「…………」


 時田はシゲミの問いに、答えられなかった。大勢の前で泣いたので、恥ずかしさはあった。同時に心配だった。卒業生の保護者が、思考盗聴器関連の物を使い、パニックにならないか、暴動にならないか――。傍から見れば大袈裟で、心配し過ぎだったが、当の本人は大マジでそう思っていた。


「明日の卒業式は行かない様にしようや」


「!!」


 シゲミは世間体を気にしたのだろう、行くな、と言ってきた。父親の言うがままに、大体生きて来た時田は、首を縦に振った。


「うん、行かない……」



 ――、


「誰かに何かされたんだろう? 言ってみろ」


3日も経たぬうちに、シゲミは時田に問いただしてきた。


「……」


「なにも無かったんか?」


「……イタズラ電話とか、迷惑メールを送られた」


 腹の底からやっと出た言葉がそれだった。


(思考盗聴器とは言えない……)


「分かった。それなら向こうの親に訴える」


 時田はその時心の底から安堵した。


 これで思考盗聴器の被害から逃れられる。


 イタズラ電話や迷惑メールで、伝わるだろう。

 父はナルの家にすぐさま電話をかけた。


「……」


 電話が終わる。


「××さんとこに電話したけど、イタズラ電話や迷惑メールなんてしてないと言ってきたぞ」



(! ! ! !)


 血の気が引いた。まさか、自分の非を認めないとは……! 自動車教習所で過呼吸になった。高校の卒業式にも出られなかった……。思考盗聴器の所為で――。それなのにヤツは……ナルは謝りもしないのか……。


「証拠は無いんか?」


「うっ……全部、イライラして消した」


 必死に嘘をついた。


「向こうのお父さん、怒っとったぞ。言い掛かりだ、と。こりゃあ、謝りに行かんといけんかもな」



「! ! ! !」



(逆に……謝る……?)


 時田はストレスでどうにかなりそうだった。


「今から謝りに行くぞ。でも何かされたんじゃな? それも伝えよう」

「……分かった」


 ナルは鬼だ。とりあえず人の血は通っていない。身勝手で残酷な悪魔だ。今から時田は、そのナルの家に謝りに行く事となった。


 ――ナルの家に着いた。時田とシゲミは車の中に居て、ナルのお父さんはその車で話をするようになった。しばらくして、ナルの父が家から出てきた。ナルのお父さんが車に入って来る。


「言い掛かりをつけてしまい、すいませんでした」


 時田は泣きそうになりながら謝った。その様子を見て、何か感じたのだろう、ナルのお父さんは時田に対して、何も言わなかった。


「イタズラ電話や迷惑メールは無かったかもしれんが、何かされたのは事実なんです」


 シゲミはフォローを入れてくれた。


「……分かりました」


 ナルの父は引き下がってくれた。

 時田は胸をなでおろした。


(怒られなくて良かった)


『被害者が謝る』


 あまりにも奇妙な形で、この出来事は幕を閉じる。

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