44 地続きに、地獄は続き――、教習所後、卒業式前日――
(その機械が何なのか……。考えろ……考えろ……!)
「『考えろ』? なに? こんな奴なん?」
「こんな奴なんよ」
ナルは人のプライバシーをおもちゃの様にしてカツヒコの学校の女子と、会話を弾ませる。
(小型の機械? 手のひらサイズなのか……?)
気付けば、いつの間にか昼休憩は終わっていた。
時田は悶々と悩んでばかりいた。
「よーし、午後はコース2からやってみよう!」
教習所の教官ははつらつと元気に言うが、時田の心は進まなかった。
コース2は、外周を一周してから、交差点やS字路等がある内側のコースを回っていく。
「じゃあ時田君、やってごらん」
「はい……」
返事をするも、時田の心は思考盗聴器の事で溢れかえっていた。
「ハァ……ハァ……」
「……でさぁ」
「へぇー」
昼休憩の時の会話が過ぎる。
「ハァ……ハァ……」
時田の呼吸は次第に乱れていった。
外周は終わり、内側のコースに……
入れない。
時田はそのまま、外周を二周、回ってしまった。
「どうしたんだい?」
「す、……すいません!」
「頼むよ。もう一回行こうか」
「はい……」
もう一度、コース2を走る。
しかし――、
時田はまた、外周を回りそのまま走り続け……
「おい! 何をしているんだ!?」
「はい……すいません……」
車を止めて、教官の顔を見て謝る。
「時田君……!」
「?」
「顔色が悪いよ?」
「!!」
時田の手は――
ハンドルを握ったまま震えていた。
「今日は帰った方が良いみたいだ」
「! ……分かりました」
時田の様子がおかしいコトは、教習所の誰もが確認できた。
「ハァ……ハァ……」
車から降りて、荷物を取りに建物の中へ入った。
時田の異変に、心配する教習生達の中で一人、ニヤニヤする男が居た。
「何アイツ、こういうヤツなん?」
「そ……、そうよ。こういうヤツなんよ……!」
「! ……」
男に話を振られ、ナルはほっとしたように答えた。男も大概だが、ナルは本当に血の通っていない、畜生だという事が分かった。
時田はその日、教習所を早引きした。
至近距離からの監視により、思考盗聴器の謎が深まり、恐怖し、体調まで崩してしまったからだ。家にも連絡を入れ、送迎の場所からは、家族に家まで送ってもらった。
「どうしたんな?」
「ちょっと、体調不良で……」
さて、明日は卒業式の前日だ。久しぶりに高校に通い、卒業式の予行演習をする。
(明日は、久しぶりに皆と会えるな。楽しみだ。でも……)
脳裏を過ぎるのは、『思考盗聴器』の五文字。その夜、時田は久しぶりに眠れなかった。
翌日――、
時田は一睡もできずに朝を迎えた。目は充血し、髪の毛はボサボサだった。少しはセットしたらいいのだが、時田は全てがどうでもよくなっていた。
(思考盗聴器……)
時田は見えない敵に対して、恐怖するしかなかった。
卒業式前日のその日、父は時田を学校まで送ってくれた。登校する途中、顔見知りの同級生に会った。
「オッス、だいじょぶか? 何か雰囲気が変だぞ」
「……うん」
「……ダメだこりゃ」
時田は何か言われた気がしたけど、どうでもいいという感情しか湧かなかった。
教室に着いた。心身ともにボロボロの時田を見たクラスメイトは、何やら心配している様子だった。すると、隣のクラスから、
「そういうヤツなんよ! こんな奴なんよ!!」
ナルが吠えている声が響いてきた。
(また……か……いつも思うのだが、常に何かについて怒りを覚えていないと死ぬ生き物なのか? アイツは……)
「三年生は体育館へ移動して下さい」
どうやら、卒業式の予行演習が始まるらしい。アナウンスが鳴った。
時田はふらつきながら、ボロボロの状態で、体育館へ移動した。




