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最凶の人生~思考盗聴器と共に生き、本当に一度死んだ男~  作者: 時田総司(いぶさん)
6章 束の間の高校編

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41 狂い続ける絶望的な世界にも、希望がろうそくのように灯ることがある

「何をしているんだ!? 開けなさい!!」


 渋々時田は部屋の扉を開ける。


「何をしていたんだ?」


「い、いたずら電話をされたんで、怒って壁を蹴ってました。すいません」


 咄嗟に口から出た言葉がそれだった。


「取っ組み合いの喧嘩かと思ったぞ。君はもう試験に合格しているけど、他の3年生はまだ受験しているんだ。大きな音を立てない様に」


「はい……すいませんでした」


 バタンと扉を閉め、去って行く舎監。ふーと、時田は大きな溜め息をつく。そして――、



(おい……てめえの所為で怒られただろうが? どうしてくれる?)



 何かを睨み付けた時田は、思考盗聴器越しにナルを睨み付けるようにして言った。


『そんなヤツなんよ! 私の所為にして!! それが腹立つ!!』


(本当にお前の所為だろうが……。あと、24時間キレてないといけないのか? お前は)


「もう! しゃーない!!」


 時田は匙を投げてしまった。怒りでどうにかなりそうだったので、明日の試験の勉強は何一つせず、床に就いた。



 センター試験二日目――、


 試験が終わると時田は、一日目よりも散々な手応えを感じ、トボトボと家路を辿った。もちろん、今回も音声送信による妨害で、集中できないまま試験が行われた。


(推薦入試が無かったらと思うとゾッとする。思考盗聴器と音声送信によってここまで人生を狂わされた人が、同期に居るだろうか?)


 時田は自分の不幸さを、心の中で嘆きながら寮へ帰って行った。


 センター試験が終わって何日か過ぎた頃――


 時田はもう一つの大学入試を受けに、隣りの県に行く。通っている高校の株を上げる為に――、である。

 この県立の大学入試は数学のみの試験だった。数学は、それなりに成績を残せてきたので、試験を受ける数カ月前までは少し自信はあった。


 しかし――、


 音声送信により、試験の勉強をほぼすることができなかったので、試験を受ける前日、その自信は消え失せた。


『数学出来るん?』

『うーん、それなりに』


 音声送信に加わる(?)人数は日に日に増えていって、ナル以外の声も聞こえてくるようになった。 それも、時田を媒体にして、会話をしている。


(迷惑な話だ)


 さて、試験会場の大学への道のりは、始め、駅まではシゲミに車で送ってもらう事になっていた。


「ありがとう」

「頑張れよ」


 駅からは電車に乗って試験会場まで向かう。

 電車内、恐らく同じ入試を受けるであろう高校生が居り、参考書を読んでいた。


(こっちは、何をやったって同じ……)


 時田は少しでもストレスを無くすように敢えて、勉強をしなかった。いや、ストレスでできなかったと言ってもいい。


『余裕こいて勉強しないのよ! それが腹立つ!!』


(……相変わらず元気なこってぇ)



 ――、


 いつの間にか、試験会場の最寄り駅に着いていた。駅は1面1線の単式ホームだった。


(帰りの電車、乗り間違えないようにしないと――、な)


 試験会場に着いた。受験番号を確認して、席に座る。数十分前に着いたため、時間に余裕があった。トイレを済ませてから、試験に臨んだ。


「始めて下さい」


 パラっと一斉に問題用紙をめくる受験生達。時田も、その一人だった。


(うわっ! 最近授業で出て来たヤツばっかだ。微分積分の応用……? みたいな)


 時田はセンター試験対策として、音声送信を聞かされながらではあるが、数ⅠA数ⅡBは勉強してきた。しかし、数ⅢCはほぼ、手を付けていられなかった。


(思い出せ……)


『分かるんかなー?』

『できるの? コイツ』


(……)


『分かるんかなー?』


(お前ら黙れ!!!! 国公立の試験だぞ!? 国が建てた大学の入試邪魔するんじゃねぇぞ!! 国に喧嘩売る気か!?)


『……』

『……』


(……)


『分かるんかなー?』




(だ! か! ら!!! 黙れよ!! 集中できねぇよ!!!!)




『……』


(絶対落ちた……。公式思い出そうとしても雑音が聞こえてきて無理だ。準備不足は否めないが、公式が思い出せそうな瞬間に話し声が聞こえてくる……)


 問題は大きく分けて3つあった。


(! ここは……分かる)


 不意に、電気でも走ったかのように閃きが生まれた。鉛筆がはしる。


『おおー』

『やるじゃん、よく分かんないけど』


(黙れ)


 時田は、3つの内1つ、問題が解けた。でも――、


(残りの問題、サッパリ分からん)


『ダメじゃーん』

『期待外れもいいとこー』


(黙れ、お前らよりは解けてる自信はあるわ。……ごめんなさい、高校の先生達……)


 時間は刻々と過ぎていく。

 すると突然――、


(! ここ、この公式に当てはめれば……!)


『おっ?』

『何か書いてる』


(インテグラル……コサイン……!)


 またしても閃きが生まれたの如く、微積の公式を思い出していった。時間は残り僅か!


「そこまで! 鉛筆を置いて下さい」


(ふー)


 時田が問題を丁度2つ解いたところで、試験は時間切れとなった。


(何割で合格なんだ? 解いた二つは自信ありだけど……)


 時田は嬉しかった。こんな状況でも試験をそれなりにこなせて、少しの希望が湧いた事が――。


(あとは帰るだけだ。駅に向かおう)


 時田はこの後起こる思いもよらない事態を、知るよしも無かった。

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