39 音声送信
それはナルの声だった。
(? 何だ? 頭に直接……声が……)
時田は少し気になったが、勉強を進める。数学の勉強だった。
(答え合わせしよう。おし! 丸、と)
『何で勉強してないのに分かるの!? それが腹立つ!』
ナルが完全に我を忘れる程怒り散らしてきた。あまりに大きな声だったので、無視できなかった。
(ちょっと待て、今勉強している最中だから、勉強してないのにってのはおかしいだろ?)
『それが腹立つ!!』
最早何に腹を立てているのか……? 流石にうるさ過ぎる……。しかし勉強を止める訳にはいかない時田は、更にペンを進めた。
(おっバツだ。間違ってる)
『間違ってるじゃないのよ!! それが腹立つ!!』
甲高いナルの声が頭に響く。
(だから待て、今勉強して答え合わせしているんだから、どこで間違ったか確認しているんだ。うるさいから止めてくれ)
『それが腹立つ!!』
話にならない……。今までは遠くで時田の黒い噂をしていたが、今度は頭に直接声が届く。耳を塞いでみる。しかし頭の中で声は響くだけだった。どうすれば……。時田は困惑した。
(この現象は、説明できない……)
時田は遂に勉強を止めた。
(待ってくれ、どうしたいんだ? なぜそんなに怒っている?)
『そういうヤツなんよ! それが腹立つ!!』
時田は再三思うのだった。
(話にならない……。これは相当なストレスになる……。折角、隣のクラスの部活仲間が、俺に分かりやすく思考盗聴器の使用をやめてくれたのに、これでは意味がない
ダメだ)
時田はペンを置く。ここまでうるさいとまるで集中できない。そこでナルに問い掛けてみる。
(どうしたんだ? そしてこの現象は何なんだ?)
『こういうヤツなんよ! それが腹立つ!!』
……。
問い掛けは無意味の様だった。
(頭に直接、声が聞こえてくる――。そうだ!)
時田は不意に携帯電話を取り出した。『頭に声が聞こえてくる』この、検索キーワードで今回の現象を検索した。
その答えは、案外、呆気なく、すんなり、造作も無く見つかった。
(! 何……?)
そこに書かれていた言葉は――
音声送信。
『音声送信。誰かの声が聞こえる、頭の中で不快な音が聞こえる、といった現象で何者かの声や発生源の不明な声が聞こえる、聞かされることを言う』
これもか!?
時田だけが被害者じゃない。他にも、日本中に被害者が居る……! 対策は……『頭にアルミホイルを巻く』
……。
(違う! こんなんじゃ無いだろ!!)
(電磁波とか、パルス波とか! もっと! 科学的なのは!?)
『2007年現在、アルミホイルを巻く以外の方法は無い』
……。
(で……、電安室に籠るとかは……? そんな予算無いか……。それにしても――、)
『こういうヤツなんよ! それが腹立つ!!』
(相変わらずうるさ過ぎる。俺の自由は僅か3日程で終わってしまったのか……? やっと普通に暮らせると思ったのに……)
ふと、時田はカレンダーを見る。
センター試験まであとわずか。
(ただでさえ勉強時間が足りていないのに、これじゃあ……)
時田は落胆した。それでも、机に向かった。
そうして、ナルからの音声送信と戦いながら、僕はセンター試験までの間勉強を続けた。
そして遂に、センター試験当日。
『それが腹立つ!!』
朝、目覚めと共にナルの声が頭の中で響いた。
時田はまさかと、自分の予想を疑った……。
(今日の試験、県内で行われるからって、付いて来るなよ? 大人数が受ける試験だからな。変なコトになったら責任取れないだろ?)
『それが腹立つ!!』
(……コイツの脳みそに、理性というモノは存在しているのか……? 仕方ない、支度して、センター試験に出発だ)
時田は電車とバスを使って、試験会場に向かった。移動の最中、声が鳴り止むことは無かった。遂に試験会場に着いた。
(あのなぁ、くれぐれも、試験の邪魔はしないでくれよ? 準備不足でもやれることはやりたいから)
そう、準備不足――、それも思考盗聴器と音声送信の所為なのだが……。
『そういうヤツなんよ!』
(どういうヤツなんだよ……?)
ナルからの音声送信が鳴り響く中、センター試験が始まった。




