38 思考盗聴器
『本命が受かったからもういいだろう』
時田はそうとは思わなかった。
『推薦してくれた学校に感謝し、少しでも恩返しができるよう、もう一つの国公立の試験も合格しよう』
時田はそう思い、勉強に力を入れた。しかし――、
「おい! なんか面白いコト言えよ!」
隣の女子寮からのナルの監視は続いた。
当然、勉強にならない。
(さて、どうしたものか……)
時田はストレスで、頭が痛くなった。
(クソッたれ……)
夜もあまり眠れない日々が続く。ある日、ふとガラケーを使い、調べものをした。検索キーワードは以下のものだった。『頭の中を読み取る機械』すると、一つの言葉に辿り着いた。
「思考盗聴……器……?」
時田は記事を読み進めてみる。
「頭で考えた事、言おうとしている言葉、耳で聞き取った言葉が言語化されているなら――、特殊な電波を照射し、跳ね返った反射波を読み取り――、ディスプレイに文字が映る――!」
コレだ!
時田は遂に“何か”が何なのかを知った。
それは――、
『思考盗聴器』
(同様の被害者も居る! 予防策は!?)
『2007年現在、無し』
!
時田はガックシと肩を落とす。
「でも!」
目をキッとさせる。
(病気や思い過ごしなんかじゃあない。確実に、この世には思考盗聴器というモノがあって、その被害者も、俺以外に存在する……!)
この情報を得たのは大きい。こういうサイトが一般化され、認知されるようになれば……! それに、こういうサイトのお陰で、情報共有をさせてもらえる! いつか対策が行えるようになれば……!
時田は僅かではあるが、有効的な情報を得て、微かな希望を持って、この思考盗聴器との戦いに、挑んで行くことになる。
――、
その日は突然やって来た。
12月――、終業式の日。
いつものように学校に通うと、体育館で終業式が行われる。ここからは授業日数も少なく、三学期は有ってない様なモノらしい。出席番号順に列になって並んでいた。
すると、誰かにトントンと肩を叩かれた。何だろう? 振り向いてみる。そこには隣のクラスで、部活仲間だった石井が居た。
「どうしたん?」
「何でもないよ」
(! そうか、前に……)
(回想)
時田が隣のクラスの友人に、“何か”越しに頼み込んだ。
(コレをもう使わない様にしてくれないか? できれば分かりやすく。いつか肩を叩くとかして、使わない様になったことをそれとなく示して欲しい)
(回想終了)
時田は笑顔になり、心の底から今在る自由に感謝した。
ありがとう。
その言葉は不自然だったので口にはしなかった。
暫く周りを警戒したが、思考盗聴器を使用している様子は無く、これが“普通”これが、時田の求めていた“リアル”だと心から思った。
終業式の後、寮生だった時田は実家に帰ることとした。
帰って早々、K君に会いに行った。K君の家では色々な話をした。部活の事、勉強をした事、受験は推薦だった事……。思考盗聴器のコトは話さなかった。変に巻き込むようだったので――。話は弾んだ。
しかし――、
ナルはまだ、地元で思考盗聴器を使用していた。実は、K君の実家とナルの実家との距離は近く、道路を挟んだ向かいに在るのだ。ナルの高笑いが聞こえ、堪忍袋の緒が切れた時田は思った。
(ナルのババア)
すると、当然の如くナルは癇癪を起こした。
「ほら! 私のおばあちゃんに向かって!!」
(いや、お前だから……)
隣のクラスは一致団結して、思考盗聴器を使わずにいてくれたのに、お前だけは一向に変わらないのな。時田は心底うんざりした。
「こんな奴なんよ!」
ナルのその声が道路の向かいから聞こえた為、時田はムッとしたらしい。
「どしたん?」
K君にはその表情が歪むのが分かったらしかった。
「いや、ナルの声が……」
「聞こえんよ、耳良いんだな」
「……」
「……」
気まずくなった。
「そろそろ、帰るよ。今日はありがとう」
「うん!」
――年が明けて、再び寮で勉強をする事になった。ナルが居ない。どうやら、実家でぐうたらしているらしい。
思考盗聴器が無い生活! 勉強ができる! これが自由!
すらすらとペンが進んだ。
と――、突然。
『こんな奴なんよ! それが腹立つ!!』
頭に直接、声が聞こえてきた……!!




