31 Kのコト3
精神科に入院するくらい、中学校時代のトラウマとなった“何か”を再び使われた時田。勉強も2年時よりも手に着かず、重い日々を送っていたのだが、
ナルのようにはならない、あんな我が物顔で、他人の存在を自分のストレス解消の道具としか思っていないような人間には、決してならない
そう心に決めていた。
それが形となって顕れたのは、あの日秘かに誓った約束を心のどこかでずっと覚えていたからだ。
中間試験終わり頃――、Kが寮の食堂で携帯電話を見せびらかしていたらしい。それを野球部の監督は外から窓越しに目にしていた。ミーティングが始まった。
Kはこっ酷く叱られた。その中で、亡くなった父親が学費や寮費を払えない代わりに、監督さんが費用を立て替えていることを部員の前で伝えた。最後の方でKは、目に涙を浮かべていた。触れては欲しくないことを言われたのだろうか? そして――、
「怒られて悲しい悲しいで泣いているようじゃあ、亡くなった父親も浮かばれんぞ!!」
監督は、心無い言葉を、Kに言い放った。
Kは、浮かべていた雫をボロボロと頬を伝わせて床に落としていった。
(それは違うだろう!?)
Kは、確かに調子に乗って携帯電話を見せびらかした。監督のお金で、買ったものかもしれない。でも、
多分だけど、Kは『怒られて悲しい』で、泣いている訳じゃない。
『父親の代わりに金を払っている』
それを部員全員の前で言われたからだ。
父の死と、監督への申し訳なさ。
その全部が一気に来たんだ。
それを、勘違いした上で『亡くなった父親も浮かばれんぞ』とか、父の死を引き合いに出して晒し者にし、傷付けるのは間違っている!!
(今日……か……)
『Kが困った時には力になってやろう、助けてやろう』
俺はすぐにKを自室に呼んだ。
「俺の部屋に来い」
Kは打ちのめされた時や、疲れ果てている時の顔で自室に現れた。
「俺はもうダメじゃ」
「マッサージしてやる、寝転べ」
「何なそれは? ええわ」
「良いから!」
「……」
Kは渋々時田の言う通りに寝転んだ。3年間、ベンチにも入らず先輩のパシリに落ち着いていた時田のマッサージの腕前は本物で、Kの緊張している筋肉の場所をすぐに探り当てた。
そして、そっと静かに口を開いた。
「K、監督が父親がどうとか言ってたけど、俺は……あの涙は、監督が言っていた意味の涙じゃなかったって思っているから……」
Kはピクリと、猫のように身体を反応させ上半身ごとこちらを向いた。
「時田、俺は切り替え早ぇーから!」
「!」
「もう、マッサージヤメロ」
時田を振りほどく様にKは立ち上がった。そして自室のドアまで小走りで行き、振り返る。
「もう、立ち直ったわ」
「! ……本当か?」
「うるさいわ、死ね!!」
バタンと、Kはドアを大きく叩いて出ていった。ははっと、軽い溜め息を吐き、呟いた。
「『うるさいわ、死ね!!』か……Kのお父さんも、これで許してくれたかな?」
後のお話、野球部を引退し、Kは関係者の紹介で大企業に就職、時田は大学に進学した。
それから十年。
二人は、まだ会えていない。




