28 せめて、野球部らしく
翌日、新1年生が体験入部しに来て、遂に時田は最高学年になる。
「もう、死ぬほど休んだ……明日、だな――」
時田は学生寮の、監督が住んでいる部屋に足を運んだ。
「監督さん。明日から復帰し、練習に参加します」
「おう、分かった」
この3カ月弱の間、自分一人だけ特別な食事を食べていた。一人だけ病人として、練習を休んでいた。
どのタイミングで、食事も元に戻し、練習メニューにも普通の部員として臨むのか――? 医者に診てもらい、GOサインが出たわけではない。自己判断と、卒業式の一軒が大きかったのだろう。ここから、ブランクによる体力との戦いになる――。
その日は静かに訪れた――。
「○○中学出身です! ポジションはキャッチャーを……」
新1年生がグラウンドで声を張っている。
(今年も、ピッチャーのノックの時、ボールが転がった方向に走れって、言われるんだろうな。そして、1年生のうちは、大体の人間が頭で分かっていても身体が動かない……)
時田は、何故だか得意気になりながら胸の内で呟いていた。
「シートノック開始! 1年生は各ポジションに3人ずつ就いて!!」
新チームからマネージャーになった道井の指示で、1年生が走り出す。時田は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、今度は声に出しで呟いていた。
「暴走機関車モードで行くか……」
2,3年生と、ノックを受けていない1年生とで、シチュエーション想定のランナーをやった。
「0アウト、ランナー1塁!」
「カッ!」
木製の細いノック用バットが、乾いた音と共に白球を高々と飛ばした。時田は、2塁ベースギリギリまで走っていき、外野手がノーバウンドで捕るのを確認した後、全速力で1塁ベースに戻る。
(足が……動く……!)
ズサァーと、スライディングを決めて1塁ベースを踏んだ時田は、外野手からのエラーを誘う気満々だった。
「ハァッ……ハーフウェイっていうのは……、ハァッ……『ハーフ』って言うけど半分まで行けっていうコトじゃなくて、セーフになるところまでって意味だから!」
時田は息を切らしながら、1年生にランナーのコツを手ほどきした。
「練習で……大袈裟にやってみると、自分のハーフウェイが分かるから、ハァッ……まずはアウトになるくらいのつもりでやってみよう!!」
その時田の様子を眺めていた監督は、ほう……と何やら顎に手やり、考え事をしていた。
10日後――、
「今回、部の中での自分のレベルを把握するために、背番号を40番まで配る」
監督から部員へ背番号が配られた。
(前回は1年生の時とかに1回50番貰ったきりだったな……何の思い付きか……)
「34番……時田」
「……! はい!」
時田が初めて実力で獲った背番号は、34番だった。
「やったな、時田!」
「良かったな!」
滝本と脇井が声を掛けてくれた。
「……うん!」
それから、時田の野球に対する姿勢が、また変わったように見えた。
(バントのサインだ……)
時田は、練習試合、ボールキーパーをしながら打席の宮川と、監督のやり取りを見ていた。ボール球2球に対し、バントの構えを解いた宮川はそれを見送り、カウント2ボール0ストライク、ここで監督からのサインが変わった。
(エンドラン……ここまでの流れなら……)
宮川は1球目、2球目と変わらずバントの構えを見せていた。3球目が放られる、
瞬間――、
ダッと1塁ランナーはスタートを切る。バッターの宮川、バットを引いて……
「キンっ!」
その打球は1,2塁間を抜け、ライト前へ。スタートを切っていたランナーは3塁まで進んだ。
(1,3塁! これが……バスターエンドラン……! ミーティング通り、決まった)
時田は更に意欲的に野球を知ろうとし始めるのだが、3カ月弱というブランクによる体力不足が、時田の身体を確実に蝕んていたのだった。




