26 冬の季節
26 冬の季節
修学旅行が終わり、部活が始まる。
時田は、通常の部員として練習に加わることも、ケガ人として練習のサポートをする役でもなく――、
『病人』
膵臓と胃、肝臓と胃を壊した部員として、練習をサポートしていた。
(病人って何だよ……?)
グラウンドでは、バット風を斬る乾いた音が、何度も何度も響いた。
部員は、1! 2! と、掛け声を出しながらバットスイングを合わせていた。
その光景を、時田はベンチの端から眺めていた。
手を伸ばせば届きそうな距離に、バットも、グラウンドも、仲間の声もある。
それなのに――自分だけが、その輪の外にいる。
(ちくしょう……)
胸の奥に、言葉にできないもどかしさが溜まっていく。
『スイング10万本一番乗り』
毎年野球部は、手書きの年賀状に新年の目標を書く。時田は、スイング計画を始めた11月に、既に年賀状を書き終えていた。本来なら、一緒にバッ手を振っているハズの自分が――、
走れない。
振れない。
それどころか、全力で声を出すことすら、腹の奥が痛んだ。
代わりに出来ることと言えば、
ボール拾い、
バット運び、
グラウンド整備。
どれも野球には違いない。
それでも――。
(理由が、病気なんて――。野球するヤツの理由じゃねぇ……)
「8! 9!……40!」
グラウンドに響き渡る活気づいた声が、やけに虚しく感じた。
「今年も、クラス対抗駅伝大会がありまーす!」
担任立井が教壇に立ち、やけに嬉しそうに発表した。
「組み分けをクラスで決めまーす」
時田は、あれから相変わらずの沈んだ表情で考え事をしていた。
「(駅伝大会……去年は何か知らんけど2区とアンカーを受け持って2回も走らされたな……)センセー。俺、今年は走れません……」
「何でよ!? 野球部でしょ?」
「(イラっ)腹壊してまーす☆」
「あっ、そうなの。早く言ってよ」
(言う前にお前がいきなり切れ散らかしたんだろが!)
立井へのヘイトが溜まっていく、時田だった。
――、
「こういう組み分けになりましたー」
「!」
「あっ」
何の因果か、クリスマス前に告白してフラれた相手のNさんの組に、時田も居た。
(おいおい、いぢめかよ……)
時田の気持ちは、更に海の底へ沈むようだった。
その日の夜――、
ピロリロリッ♪
「!」
Nさんから時田宛にメールが届いた。
「えっ? えっ! えっ!?」
時田はガラケーを手元から落としそうになるほどアタフタしていた。
「内容は……!?」
『時田君。駅伝、一緒の組になったね。駅伝の襷にイラストなどを書くこととなりました。時田君は走れないから、襷に名前書けないけど、この組を応援しようね!』
(……!!『時田君は走れないから』)
その一文だけが、妙に胸に引っかかった。
そして時田は、体調を崩してしまった現実を再びたたきつけられた。それと――、
(Nさん……『時田君は走れないけど、襷に名前を書いたから、一緒に魂乗せて走ります』にはなんないの……(涙)? 俺の惚れた女の子は、結構鈍感なのか……。
『襷づくり頑張って☀☀ 皆が走るの、応援してます』
っと……)
数日流れ――、駅伝大会当日、時田は会場の隅で襷を繋いで走る同級生の姿を眺めていた。
(みんな……楽しそうに走って……)
もしこの時の心を診察されたなら、
鬱状態と診断されても不思議ではなかっただろう。その後、更に向かい風が時田を襲う。
「寮の部屋替えをおこなう、時田は――」
監督の判断で、部屋の割り当てがされた。時田の部屋が決まった。
時田は、
誰とも関わらない部屋――、
一人部屋になった。




