25 命を繋ぎとめた修学旅行2
グアム島に上陸した。メル友にお土産を買うことすらできないため、当初乗り気じゃなかった修学旅行だが――、
「――!!」
日本では体験できない、開けた空間が目前に迫ってきた。
青く高い空、
透き通るように広がる海、
大胆に立ち並ぶ建物の数々、
そして、広すぎる道路――。
「あ……アメリカンサイズ……」
スケールの違いに、時田は目を奪われた。すーっと息を吸い込んだら、12月だというのに夏の匂いがした。
(空から降り注ぐ日差しは
優しく暖かな声で
光も届かない場所から俺を広い
大地に導いてくれた
不安や悲しみの無い場所へ
白い光の中へ)
時田は替え歌を脳内で再生させながら風を感じていた。
この修学旅行で――、
時田はグアムの大自然や土地の空気を満喫していた。
現地の植物や動物を観察し――、
グアムの海をバナナボートで走り――、
本場の(?)マックのボリュームに驚きながらほおばる。
夜はライトアップされたナイトマーケットを赤いシャトルバスで巡った。煌めく光の中、心の中の寂しさが少し溶けていくようだった。
ホテルにて――、
夜の静けさに、寂しさが戻りつつあった時田は、コトもあろうか、田尾に中学校時代の忌まわしい思い出を語ったのだった。
「田尾、俺な。信じられんかも知れんけど、中学校時代に、同級生の保護者ぐるみで監視されたことがあってな……」
「はぁ!? マジか。お前……可愛そうだぞ」
「そうか……やっぱりそうか」
「可愛そ過ぎて涙が出てきた」
田尾の片目が、キラリと光った気がした。
「田尾、お前優しいな。初めてこのことを可愛そうって言われたぞ」
時田はこの時、田尾を心優しい男と感じた。いや――、感じてしまった。1年生のあの時、先輩の家族の葬式で――
(回想)
田尾津地男が、式場の通路でニヤニヤしながら小刻みにはしゃいでいたのだ。
「横チン横チン」
(コイツ……なんてヤツだ……!?)
(回想終了)
横田をからかっていた男、血も涙もない15歳の畜生――、
それが田尾の真の姿なのだ。
ならこの時、修学旅行の田尾は何故涙を流しそうになったのか――?
それは、こんな時は通常の人間はどうするか考え、
普通を装っていた、
演 技 を し て い た か ら だ っ た。
時田は歪んだ判断をした。この瞬間から田尾を“良いヤツ”と盲信してしまうのだった。 そう、
『お父さんは総司を愛しているよ』
まるで最も近くて遠い、父。自分に呪いをかけたシゲミと同様に――。
「にゃ――!!」
『!?』
ホテル内で悲鳴が上がった。
「あれは……ノブコフ!? 行くぞ、田尾!!」
「おう、時田!」
廊下へ出ると旅行に来た同級生数名が居た。ノブコフは小走りでこちらに来ている最中で、他の数名は、口に手をやり、何やら震えている。
「ノブコフ、どうした!?」
「時田、田尾! 石井が……」
『石井が……!?』
「便所詰まらせた!!」
「ぶはっ!!」
『ぎゃはははは!』
「何しょーんな、石井」
「ホテルの飯が美味過ぎて、腹パンパンになったか?」
時田の心のモヤモヤは、この一瞬、完全に消し去られた。
「石井……やるなぁ!」
「ははっ!」
一夜明けて――、
「石井、便所大丈夫だったか?」
「チップを枕元に置いておいたぜ……」
一行は次の目的地に足を運ぶ。
「――、ここは……」
時田はその観光スポットの看板を見た。
『愛し合った男女二人が髪を結んで、この崖から海へ飛び込んだ場所です』
「ここが……恋人岬か……」
それは終わった恋、完全に断ち切ったはずの未練だったが、心のモヤモヤはまた顔をのぞかせた。
「……(ノブコフは彼女に恋人岬関連のグッズを買うのか……よし)」
誰に宛ててか――?
時田は近くのお土産コーナーで、オレンジの果実がプリントされたTシャツを買い、日本に帰国した。




