19 初恋の魅力は、それが終わることを知らない点にある
秋の公式戦が終わり、私生活も安定していた頃――、
『俺、Nさんが好きかも知れん』
時田の心の余裕は、恋心という形で内面に表れ始めた。
時田の異性レーダー、『好意レベル』は5段階存在した!!
1.何か居る(好きではない)
2.あの人気になる
3.好きかも知れない
4.好きだ!
5.もう告白しよう
中学生時代、他人の惚れた腫れたのお話に参加するコトすら無頓着だった時田は、高校2年生にしてこの程度の恋愛観だった。
「はぁ、Nさん……」
教室の端っこで溜め息交じりに呟いていると、滝本がいつもの爽やかな笑顔で近付いてきた。
「時田、ちょっと今夜話がある」
「?」
部活が終わり、学生寮にて――、
「お前、Nさん好きって言ってたよな?」
「! あ、ああ(かも知れないってレベルだけど……)」
滝本が時田に何やら有益情報を持ち込む素振りを見せている。
「俺の彼女が、Nさんのメアド持ってるから、それ伝いにお前に連絡先教えてやろうか?」
「まぢ!?」
時田はエサを与えられた犬の様に食いついた。
「あっちが良いって言ったらじゃけどな。断られてもショック受けんなよ? じゃあまた」
「……(初、メール……)」
時田は断られる不安よりも、人生初メールが女子とできるかも知れない期待の方が上回り、布団の中で寝返りを打ちながら、そわそわしていた。
(Nさん、うぅぅわっああぁあぁぁ~!!)
その夜、時田はNさんが出てくる夢でも見たのか、心地よい眠りに就いた。
後日――、
「時田、アドレス良いって言われたから、お前に送るな。……てかお前、女子とメールしたことあるん?」
「あっ! ありがとう!! 無い……」
はしゃいでいた顔が、途端に曇った。
「やっぱりそうか。お前なー、変な事送んなよ? 俺が今日だけ見てやるから、何か送ってみろ」
「あっ、ありがとう……」
コイツは神か!?
時田は滝本が、眩い光が差し込む何かの様に思えた。
「顔とか最後の方に載せて、太陽2つ3つ付けとけ。あと、↑矢印がテンション高い時。↓が逆」
「うん……うん……」
『お疲れー☀☀顔
クラスメイトで野球部の時田です。
アドレス登録してくれてありがとー↑↑』
「そんな感じ、がっついて直ぐ何通も何通も送ったりするとウザがられるぞ」
返信が来るまでの間、期待感が勝り過ぎて不安を抱く余裕も無かった。
「……これ、ホントに送れとる?」
「送れとるわ。心配すんな」
「……あー! 来たー!!……」
時田はその画面の文字を視界に刻み、次の自分からの言葉を必死に巡らせた。呼吸は荒くなり、ガラケーに伝わる指先も強くなった。
「直ぐに送るなよ?」
「分かった。……」
「そう、そんな感じ。できるじゃん、じゃあがんばれよ」
「うん! がんばる!!」
時田は必死にボタンをカチカチさせた。必死に、出来る限りの無い頭を使って言葉を絞り出した。
――、
「『お休み』……か。くぅー! Nさんン!!!」
メールが終わってからもそのドキドキは止まらないでいて送ったメールを読み返す。
(変じゃなかったかな?……あー、ここでこう返ってきて! あぁぁー!!)
2周くらい読み返してみたところで、一旦冷静になった。
(馬鹿みたいだな、こんなコトして。こんなの誰かに見られたら……クソ恥ずかしいな。でもまぁ……)
時田は目を閉じ、天を仰いだ。
(楽しい……)
時田は高校生。一般的に血気盛んなその頃だったため、他の同級生と同じで、ムラっと来た時にお一人でなさっていた。年齢的にも、性別的にも仕方のない事だ。
しかし、この頃――、
メールに夢中になっていた時田は、お一人でなさらなくても平気になっていた。
『好きだからしたい』
だとか
『したいから好きなんだ』
とか
そういう良く聞く話が、時田には通用しない。変わり者の高校生時田は、恋をすると性欲が無くなるという性質を持っていた。
『好意レベル―4.好きだ!』




