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最凶の人生~思考盗聴器と共に生き、本当に一度死んだ男~  作者: 時田総司(いぶさん)
6章 束の間の高校編

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18 その秋の熱は頭を過る憂いをまるで最初からなかったものとした

 時田のチームは、秋の県大会を順調に勝ち進んでいった。それに伴い、時田は心が弾む一方で、どこか落ち着かない。このまま勝って行って地方大会に出場してくれる、そう考える一方で、もし負ければそこで終わり、一発勝負の高校野球の非情さをこの1年と数ヶ月で理解していたからだ。更に、頭にちらつくのは――、


(負けたらあの女が修学旅行で俺を狙ってくる……)


 教室でその女が視界に入るたびに、身を震わせている時田だった。


 そんな中でも、秋の大会、グラウンドのプレーやスタンドの様子は時田の記憶に深く刻まれている。

 ある試合、エース滝本が、息も詰まる投手戦を延長になっても1人で投げ抜き、その力投は170球を超える球数にも及んだ。滝本はそのまま勝利投手となる。

 またある試合では、味方の攻撃――、同級生の八幡田が3塁ベース上から内野ゴロの間に本塁に突入、しかし生還できず挟殺プレーに持ち込まれた。そこで彼は相手内野手のミスを誘う好走塁でインターフェア、走塁妨害を勝ち取り進塁。ホームを陥れた。ここでチームは勝ち越し、スタンドが沸く。直後――、


「カキンっ!」


「!――」


 レフトへの大飛球が飛び、球場は一瞬の静寂に包まれた。高々と舞い上がった打球は放物線を描いてスタンドまでゆっくりと運命の落下点へと向かっていった。


「ドッ……」


 スタンドで、その白球は音を立てた。



『わぁぁあああ!!』



 スタンドはお祭り騒ぎ。それまでの膠着状態がウソのように、その回に大量得点を奪った。

 この大会中、スタンドで流行った曲があった。


 それは、『アフリカンシンフォニー』


 メガホンで低く太く叫び続ける応援は、じわじわと相手ナインにプレッシャーを与え続けた。その大会の、チームのチャンステーマにもなる勢いでスタンドではその曲が使われ続けた。

 スタンドでは、片手でメガホンを口に近付け、もう一方の手を回し応援する。これが長時間続くと、意外とキツイ。相手ナインの守備のタイム中にも応援を続け、圧を掛けていた為回す方の肩が熱をもってビリビリと痛む。腕を下ろす部員がちらほらいる中、時田は片腕がやられたら持ち手を交代させて応援、その間に回復させ、また片腕がやられたら持ち手を交代させて応援という風にして、声を上げ続けた。

 グラウンド、ベンチ、スタンドが一体感をもって戦っていたその大会中、時田はいつしか修学旅行の女がどうとかはどうでも良くなっていた。ただ、このチームなら今すぐにでも甲子園に行き、敵なし同然に戦って優勝できるという期待感と自信が芽生えていた。

 地方大会の出場が決まった。


「修学旅行、行かんでようなったな。おめでとう」


 エースが冗談か本気か、笑顔で時田に声を掛けてきた。時田は至って真剣に答えた。


「いや、それはもうどうでもいい。勝とうな」


「ああ」


 地方大会、その県の県大会でも遥か昔の先輩達の代からライバル校との1戦、勝てば春の選抜出場を手繰り寄せる一戦だ。大きな大会で幾度となく時田の高校の前に立ちはだかってきたチームとの試合だけに、部員全員の気合は十分だった。

 試合開始、先発ピッチャーは滝本ではなかった。この大会中、調子が抜群に良い田之上を監督はぶつけてきた。

 いつも通り時田はスタンドでナインを見守る。ここで、相手チームの1番バッターに彼は注目していた。同じ160cm台の小柄な選手。そして県でも甲子園出場回数が多いチームの1番バッター。この選手を時田は秘かにライバル視していた。ライバル視できるほどには、時田の実力はまるで達していなかったのだが――。身長を理由に、言い訳もせず諦めていない選手。その姿勢を尊敬しつつ彼に嫉妬していた。

 1番バッターを獲りに掛かる田之上――、鋭く細い白の軌道が、一直線に駆け抜ける。ガッと、バッターはそれをバットに当てたが、足への自打球となった。崩れ落ちる1番バッター。


「倒せ」


 時田は相手のミスによる怪我など、心配する程甘くなかった。その後、自打球の影響か、力ないバッティングに終わり、幸先よく1アウト目を取った。後続も打ち取り、試合の滑り出しは順調だった。「行ける――!」時田は開始時よりも自信をもってスタンドから見守る。

 田之上の打席が来た。時田のライバル(?)はセンターを守っており、バッターが投手とあってか前進守備を敷いてきた。しかし――、


「カンッ!」


 鋭い打球がセンター方向を襲い、前進守備をあざ笑うかの如く、結果はセンターオーバーの2塁打! この時、時田は田之上の底知れない実力をまじまじと実感した。後に時田は、自分ノートにこう記す。


『勝てそうにない相手:田之上、中野さん』


 試合は自チームリードで中盤を迎えた。


「よし! このまま最終回まで――」


 時田の自信は確信に変わりつつあった。自分の代で、ライバル校に勝てる――、時田は身体が熱を帯び、喉がひりついた様な感覚に陥っていた。


 矢先――、


「ターイム!」


 試合が中断された。グラウンドは湿気を帯び、荒れていた。雨が、落ちてきたのだ。


「まさか……」

「これって……」


 そのまさかは起きた。


「ノーゲーム!」


 試合は雨天中止となった。翌日、再試合が予定された。


(まあ。圧倒してたし、明日やっても変わらないか……)


 時田のこの考えは早計だった。

 翌日――、


「おいおい……こんな事って」


 再試合。僅差で自チームはライバル校に破れた。同じくスタンドで応援していた横田と時田は会話していた。


「雨さえ降らんかったらなー、時田」


「いや、アレは相手チームを応援する土地の霊が降らせたんじゃろ。グラウンド相手高校近かったし……」


「そんなコトもあるんかなー?」


「それにしても……1日で研究して修正できるところが、相手の凄いところじゃな……夏は勝つぞ」


「甲子園でリベンジじゃろ? センバツなんだから、選ばれることも考えとけ」


 しかし次の春、時田の高校はセンバツには選ばれなかった。ライバル校は甲子園で準決勝まで勝ち進んだ。

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