12 チュインチュインチュイン!! チャンスタイム!!!!
冬練は日を追う毎に厳しさを増し、ノルマや負荷の難易度が上がっていった。
ポール間45秒以内50本!!
グラウンド1周45秒以内を50本!
サーキットトレーニング上半身下半身各10種類以上80回3セット!!
((……))
言葉は無かった。そして、思考も止まった。
只々、兵隊アリの様に指示に従い、列をなして動き続ける――。無言の支配構造がそこにはあった。
走りメニュー――、
走り終え、部員はグラウンドに倒れ込む。インターバルの間ずっと突っ伏して時間を待つ者も少なからず居た。
サーキットトレーニング――、
『バーピー』では70回を超えたあたりからそれは形を失っていく……。『1から2』の、脚を伸ばすこともできず、ちょこんと微動するだけ、『3』で両手を上げてジャンプすることもできず、クっと手のひらが微動しただけ、ジャンプに至っては足が地面から浮いたかどうかも分からないそんな状態になる。
やっている本人たちは至って必死にやっているつもりでも、傍から見るとそれは『8時だよ』のネタの披露をやっているのかと錯覚する程滑稽だった。監督のニヤニヤが止まらない。
そんな、野球部・無限地獄編が上映されている中、監督ら首脳陣の気まぐれか、流石に気の毒になったのか? 部員にとあるチャンスが訪れる。
「1アウト、1,2塁から打席に立て。3アウトまでに得点を挙げるバッティングをしろ。全員打席に立つからな。全員が得点を上げたら、今日の走りメニューはチャラにしてやる。しかし、一人でも得点できずに3アウトになったら、このチャレンジは終了だからな!」
『はい!!』
監督から伝えられたチャレンジタイム。これは部員達に一筋の希望の光を与えた。
「打てー!!」
「頼むー!!」
打席に立つ部員へ、今日を生き延びたい一心の叫びが、なりふり構わず浴びせられた。
「キン!」
「カン!」
レギュラー陣はそのマシンバッティングを、全力でかっ飛ばし、2アウトにすらならず長打で2塁ランナーを生還させる。
「よっしゃー!」
「続け―!!」
「次は誰だー!?」
次は……、
「あ……」
時田だった。
((コイツか……))
公式戦は1年生大会もベンチ入りすらせず、2軍の練習試合にも呼ばれたことはない。ついでに言うと、メインの練習から外され、バッティング練習すらまともにしたことが無い、そんな時田が打席に……。
ここまで、か……。
誰も何も言わなかった。ただ、結果だけを先に思い浮かべてしまった。
「ふ、振れよ? 時田、お前スイングが少し速いから何とかランナー返せ!!」
「はい……」
打席に立つ時田。誰も期待していないことは分かっていた。それだからこそ、自然と平常心になれていたのかも知れない。
1アウト、1,2塁。
マシンの黒い円から向かってきた白い球は時田の一振りで迎え打たれる……。
ガッという鈍い音がした。一応右投げ左打ちだった時田が何とか当てた打球はボテボテでピッチャーの少し左へ。
『……!』
一同に緊張が走る。マシンに球を入れつつピッチャーの守備についていた中野さんは、その打球を1塁へ送った。
「進塁打、2アウト2,3塁で良いですか?」
「あぁ――――!!」
「あっぶねー!!!」
野球部は、文字通り首の皮一枚繋がった感じだった。
「でも……」
「ああ……」
((もう、ヒットしか許されない……!!))
「打てー!!」
「何とかしろー!!」
懇願にも似た叫びがグランドに響き渡る。再びマシンから運命の1球が放たれた。
「――!!」
時田のスイングはその白球を捉えた。
「キン!」
「えぇぇぇぇ!? まさか!!」
一閃――、打球はマシン保護のネット中段に突き刺さった。
「センター……前……?」
部員が恐る恐る監督に視線をやる。
「よーし、合格!」
「やったぁぁああ!!」
「あの時田が!!」
「続けぇー!!」
「あっ」
3アウト。
「よーし、続かんかったな。お前ら、走るぞ」
結局、全員が得点を上げるコトはなく、走りメニューが無くなるコトはなかった。
しかし、何故か部員達の表情は上を向いていた。
「今日はここまで!」
練習が終わり、部員達は部室へと切り上げていく。そんな中――、
「あー、疲れたなぁ?」
「今日も終わりかぁ」
「それにしても、あそこで時田が打つとはなぁー?」
「そうソレ、めっちゃびっくりした!」
「……!」
まさか、自分がこの野球部、そこで野球で話題に上る日が来るとは思ってもいなかった。そんな時田だった。




