7 Kのコト
Kの父が死んだ。
葬儀は時田の所属する野球部の部員全員が、前回同様出席するという事態となった。再三いうこととなるが、この野球部の監督の(監督さんと呼ばれている)方針で、部員の家族に不幸があった時に全員で出席するというふうになっている。
葬儀中、会場の後ろに居た大人達が、その弔事という儀式にも関わらず薄気味悪く何故か笑顔で居たのが、時田には甚だ理解できなかった。
時間が進んでいき、お焼香をあげるとき、時田の世界がまるで死後の世界に居るかの如く、灰色で無機質、温かみのまるで無い世界に変わっていった。
(これは……何だ……?)
時田はこの現象を経験したことがある。曾祖母が死んだ日と、同じだ――。
(回想)
「時田、全然泣かないね」
「アイツ、中学生の分際で、人が死んだ時に涙も流さないのかよ」
「人の心が無いんだよ……」
「……」
曾祖母の遺影に顔を向け、時田はお焼香をあげに、まるで生気を失った顔でゆっくりと足を進めていく。
その時――、
『死ねって言え』
幻聴(?)が聞こえてきた。心無い、残酷で無惨な、幻聴が――。
(『死ね』? ひいばあちゃんは死んでいるのにーー?)
『死ねって言え』
『死ねって言え』
『死ねって言え』
『死ねって言え』
『死ねって言え』
(ああ、幻聴か。今年、精神科に入院してる。病気か……)
時田は遺影の目の前まで歩き、ひとり立っていた。お焼香をあげ、手を合わせる。
『死ねって言え』
(し……? ……)
時田は手を合わせ、肘を張り背筋を伸ばした。そして、
――――。
只、まっすぐ立っていた。
(回想終了)
あの時、『死』を語っていた黒く歪んだ感情は、田尾津地男の仕業だった。当時会ってもいなかった田尾が、何故――? その答えは誰もが知る由もないのだが、今回の葬儀には、その男の姿もあった。
Kの父の遺影。時田は灰色の世界でその目の前に立っていた。
『死ねって言え』
再び現れた黒く歪んだ感情。今度は、目と鼻の先、見渡せば目視できる位置にヤツは居て、何かしら洗脳をおこなっていた。
(!? ――)
手を合わせ、肘を張り背筋を伸ばした。
(くたばれ)
((!?))
時田は
自分自身を、
疑った。
(何で、人が死んだ時に、人でなし、Kの父、他人の家族に、自分が、自分の言葉なのか、死者の冒涜、冗談ではすまされない、何が起きた、弔事という儀式にも関わらず、キモチワルイ、時田 は 最 低 だ)
ふと、灰色の世界がはれていたことに気付く。そして、遺影のすぐ脇の席に居た、Kの顔に目がいった。泣いていた。
恐らく、時田があんなことを思ったコトは知らなかっただろう。単純に、父親の死が辛かった、父親の思い出を思い出していたんだと、予想した。
震える声で言った。
「が……、頑張れよ……」
Kは少しだけ頷いていた様に見えた。
――――
葬儀の帰りの車で、
「アイツら、大人達がムカつく」
「!」
「ああ、後ろで笑顔になってやがった」
「Kが可哀想だ」
先輩達が大人達の態度に不満を持っていることが分かった。
(大人達がおかしかったから、それで、精神病の発作が起きて……)
言い訳を見つけようとしている自分が醜くて嫌だった。
その日か、数日後の夜、Kと話す機会があった。心苦しさでいっぱいだったが、やっとこさ言葉を選んで口を動かした。
「K、僕の家は離婚家庭で……、もうお母さんじゃないけど、お前の場合は、亡くなってもお父さんだから、まだマシだから……」
「離婚したって会えるだろーが。死んだら会えんわ」
「……」
その夜、心に決めた。
Kに対して、申し訳ない、悪いと思っているなら、Kが困った時に力になってやろう。助けてやろう。




