6 心神一如の境に至れば、痛みは意識の外へ落ちる。今は只、鍛錬あるのみ!! 心身を強く! 逃げぬ心を打ち立て、揺らがぬ軸を身体に刻む!!!
先輩が2年生だけになってから、時田はパシられるコトが増えた。ある日の夜、学生寮で高坂さんに声を掛けられたところからそれは始まった。
「時田、ちょっと部屋に来い」
何かまた先輩方の逆鱗に触れるコトをしてしまったのか……? 時田は不安だった。恐る恐るその部屋のドアを開ける。すると――、
「お、来たか。特に怒っとるとかじゃないぞ。こっちや」
「はい……?」
そこは高坂さんのベッドだった。言われるがままに足を踏み入れるが……。
「ちょっと腰とか脚が凝っとってな。マッサージしてくれんか?」
「(あ……)はい」
こうして半刻ほど、時田はその両親指に体重をかけ、持てる限りのマッサージ技術を全力でぶつけた。
――、
「お前、上手いな! またやってもらおっと」
「はい!」
ここで高坂さんと相部屋の長野さんが、何とも言えない笑みを浮かべて同情の言葉を時田に向けた。
「時田、真剣にやってしまったか。こういう時は滅茶苦茶テキトーにやって、『もう二度と頼まんわ』って言われるくらいじゃあないと……。ずっと使われるで?」
「!!!?」
時田は、少しばかり後悔したが、それの真意をまじまじと実感するのはまだまだずっと先の事になる。
そしてまたある日、今度は先輩自らがわざわざ、時田と脇井のいる部屋へ出向いてくることとなる。
「時田ぁ!」
『!!』
ガチャリと大きな音を立てたドアは、マツダさんを勢いよく部屋に登場させた。
「お前、スパイク磨け。これからはお前を使っていく」
「!(これが後輩の宿命……!!)」
「俺の“弟”は脇井じゃけぇな! 俺は兄弟制の“兄ちゃん”の人にこき使われていたから、弟はこき使わん様にする!!」
時田の野球部には、兄弟制という制度があった。3年、2年、1年とで、義理の兄弟の様にグループを作るのだ。練習中、キャッチボール等で関わる機会が多くなり、交流を深める。監督の判断でその兄弟は振り分けられる。因みに、横尾さんは時田の兄弟だった。今は2年生の兄弟の佐々木さんとキャッチボールをしている。
スパイクを時田の机に置いたマツダさんは、バタンという大きな音を立てて部屋から出ていった。
「マツダさん、ええ人じゃな……」
「……!(そりゃ脇井、お前にとってはじゃけど、僕から言えばこき使うんなら人選んどるだけで特に変わらん気がするんじゃけど……)」
――、
それから日を追うごとに、時田は裏方作業を請け負うコトとなる。
時田は風邪を引いた。熱は少しだけ高かったが、それ以上にしんどさが身体を襲った。一応先輩に相談すると、監督に話して休むこととなった。風邪にうなされてベッドで寝込んでいると――、
ガチャリとドアが開いた!
布団がブワっと捲くられ、尻に何か違和感を感じた。
そして――、
「パァン!!」
「!!!?」
時田はガス銃で射撃された。のたうち回っていると、ポイッとグローブがベッドに転がってきた。
「グローブ、磨いといて」
(!! マツダさんの声だぁ……)
時田は、熱でうなされていたらけつをガス銃で射撃され、グローブ磨きをやらされることとなった。
(モデルガンで撃たれるのはこれが人生で2回目だ……)
※1回目は親父・シゲミより
脇井は呆然とした後、時田に話し掛けた。
「さっきのマツダさんは、流石にむげぇよ……」
「うん……」
またある日のコト――、
時田は練習中にへまをした。取り返しがつかない程に――。そして部室に呼び出された。新チームから就任してすぐ、鬼マネージャーと呼ばれる中野さんに――。
「お前、いい加減にせぇよ? なぁ!!」
「!」
時田は脛を、○○の一番○○いところで〇られた。重く、そして冷たい痛みがそこに走る――。アラフォーになっても時田の脛のその部分は、ちょっと凹んでいる。そこで彼は思うのだった。
(漸く部員と認められつつあるのか……)
何故――?
その答えは、2ヶ月前まで遡る。
(回想)
「また遅刻かぁ!? 時田ぁ!!」
「……すいません」
いつもの調子で、時田はどやされていた。
「お前、俺が殴ったら、どうせ『中野さんに殴られました』って親とかに言って問題にして辞めるんじゃろ!?」
「いえ……」
「絶対そうする。お前はそういうヤツじゃ!!」
「!!……」
(回想終了)
(あの時は、他のへました部員と同じスタートラインにすら立っていなかった。ある種の特別扱いをされて、シめられるコトすらなかった。今は、高校野球やってる感じがする……)
部室にて、胸の中一人思う時田だったが……。
(でもやっぱり痛いモンは痛い……)




