5 局を乱す者は、たとえ隊士であろうと斬る
大会初戦、難なくチームは勝利を収めた。スタンドに居た時田も、これといったミスを犯すことなく、割り振られた仕事を黙々とこなす感じだった。
その後もチームは順調に勝ち進んでいき――、ライバル校との直接対決に臨むこととなった。東の強豪と、西の強豪との伝統の一戦であったため、指揮官をはじめ、選手やスタンドの野球部全員が勝利に向け、一つになっていた様に時田は感じていた。
試合はロースコアで進み、応援の声さえ重く響く、張り詰めた我慢比べとなった。ヒットは出るものの、あと一本が出ずホームまでが遠い……。そうこうしているうちに、ちょっとしたきっかけで相手に得点が入り、そのまま最終回へ――。固唾をのんでまっすぐグラウンドを見つめていた時田だったが、遂にその時は来た。
「アウト!……ゲームセット」
時田の1年目の夏が終わった。と、同時に――
「時田、いままでありがとうな」
「!――」
同じくスタンドに居た横尾さんが、話し掛けてきた。3年生の高校野球が終わったのだ。
何を話してもらったか、自分が何を言ったのかあまりハッキリとしなかったが、ボロボロ泣きながら返答を返していた時田だった。この時、いつかホームランを打って横尾さんに報告しようと、静かに誓った。
――、
夏の大会が終わると、チームは2年生と1年生による新チームになる。そこで全体のレベルアップを目的に夏練というこの部の2大イベントが行われる。そのイベントを心から楽しめる者はそんなに居ないハズなのだが……。
夏練は、夏休みの期間中におこなわれる集中した練習だ。真夏のグラウンドは50度を超える灼熱地獄となる。そんな中、全力で朝から晩までプレーし続けるのだから、並みの選手達は音を上げることになる。この暑さに耐えかね、給水所の氷をユニフォームに入れて背中を冷やす者も居ただとか……。
時田も、この暑さには身体と心が悲鳴を上げた。夏練始まって最初の感想は、『スパイクが熱い』だった。当時、高校野球は黒スパイクが基本だったコトも相まっていたと考えられる。そもそも技術がてんで話になっていない時田だったから、レギュラーの練習から外されることになるのだが、それでも夏の暑さに耐えながらの全体練習はしんどかった。時田は体力もないのだから。全体練習が終わると、寝て回復させようと早めに帰ることも多かったのだが、ここで妥協を許さない先輩、後に時田の中で土方歳三を彷彿とさせた中野さんが時田に目を付けた。
「おい、時田。お前いつもいつも『お先に帰ります』じゃの?」
「はい……」
「知っとるか? 引退した人でいっつも早よ帰るのがおったろ? 誰か言うてみい」
時田は、目線を上にあげて思考を巡らせた。3年生、練習、帰り……。
「……分かりません」
「お前のそーいうところぞ? もっと周り見ろ。おい金井! いっつも早よ帰る先輩誰だったか言うてみい」
「○○さんです!」
(! 最後の試合、ショートを守っていた……!)
通り掛かった金井の一声で、時田は○○さんの記憶が蘇った。が――、早く帰っていたかどうかまでは思い出せなかった。確かに時田は周りを見れていなかった。それは、田舎の中学の一番ヘタクソで体力もない状態から、いきなり強豪校の野球部へと入部し、右も左も分からず、練習へついていくのがやっと、ついていけているかも怪しい状態だったので、周りに目をやる余裕など微塵も無かったのだ。
「おう、正解。金井はよう見とるじゃろ? 同じ1年生じゃけぇこれくらいにはなれ。あの人、才能だけでやってきとったから、ベンチ入りは果たしても、背番号1桁はもらえんかった。いくら才能合っても、練習せん者ぁ上手くならん。才能にも限界はある。お前みたいな才能の欠片もないやつはもっと練習せんと、絶対うまくならんぞ。あとはもっと周り見ろ」
「はい!(確かに、体力もつけなければ周りを見る余裕も生まれない……)」
思考を巡らせていた時田に、中野さんは畳みかける様に言い放った。
「俺から練習メニューをお前にやる! 背走ダッシュ30本、遠投15本、素振り200本。これ全体練習終わってから絶対やれ! 毎日絶対だからな!!」
「はい!(疲労困憊の中、やれるのだろうか……)」
「おっし」
中野さんはそう言うと去っていった。そして、Uターンして戻ってきた。
「お前そういや、体力もなかったな。このメニュー全部やり切るのは時間も……どれか一つでもやれ! 毎日だからな!!」
「はい!(少し安心したけど……気を緩めてはいけない……)」
その日から10日間、時田は言われた3メニューを時間ギリギリまでやり続けた。11日以降から、メニューを減らしてしまったのが時田の至らなさだが、再び中野さんから話し掛けられるまで、遠投メニューだけは毎日続けていた。




